福島原発事故調査:政府案も、自民党案も一長一短よね

 3月から事故状態が今も続いてる福島の原発事故について、事故原因や経緯を調査するための機構の案が、政府案、自民党案、前後して報じられてます。
 複数のメディアで報じられてることです。


 アタシが思うに、政府案、自民党案、どちらも一長一短があると思えます。
 ここは、扱う切り口を分担しながら、両方スタートしてもらうと、いいと思う。

 突飛なことを言うように聞こえるかもしれないけど、そんなことないんだわ。


 JR福知山線脱線事故(2005年)の原因究明について、「事故調査委員会」と、俗に“検証委員会”とも呼ばれる「課題検討会」とが、時間的にはズレながら、調査、検証をしたこと、記憶に新しいはずです。

 福知山線脱線事故の検証については、次のようなことが言われています。
 一般的な「事故調査」は、事故が起きた責任の所在の調査に絞り込んでおこなわれる。そのため、リスクが見過ごされた背景事情、事故を未然に防げなかった背景因や、背景因を温存させた社風、企業文化や行政指導の問題点などは、かえって捕らえづらくなる。
 うやむやにもなりかねない。
 だから、「事故調査」と、「(背景の)検証」とは別におこなったほうがいい。


 アタシは、福島原発事故の調査も、政府案と、自民党案とを、アレンジしながら、切り口を分担して、両方やるといいと思うんです。

 大雑把な話、自民党案の「国会で設置する調査委員会」の方は、「福島原発事故の事故責任の所在を明確化」するための事故調査をしてもらうといい。
 一方、政府案の「事故調査特別委員会(仮称)」の方では、もっぱら「原子力安全委員会原子力安全・保安院の機能不全」や、「従来の安全基準、関連法規の不備」、「安全基準や関連法規をよしとしてきた、国政の不備」、「従来の原子力行政への政財界の関与実態」などの背景事情を検証してもらうといい。

 つまり、「国会で設置する調査委員会」の方では、「従来の法体系や安全基準の範囲内での責任所在」をもっぱら調査解明、してもらって。
 もっと独立的な「事故調査特別委員会(仮称)」の方では「従来の法体系や安全基準、原子力行政自体の不備や誤り」をもっぱら検証してもらうといい。

 このわけ方なら、かなりすっきりすると思うんですよね。


 実際、現行の「安全指針(原子力施設設計の安全指針)」を策定した、過去の原子力安全委員会メンバーの内には、報道メディアの取材に対して、はっきりと「過去の想定は甘かった」って言ってる方もおられる。
 けれど、「現行の法体系や、安全基準に照らして考えられる責任所在」の解明と、「現行の法体系や安全基準、及び、それらを踏まえた行政のあり方」の検証とを、いっぺんに処理しようとしたら、ゴチャゴチャになっちゃうに決まってる。
 だから、分担して取り組んでもらった方がいいんだわ。

 調査、検証すべき対象は、部分的に重なるでしょうけど。そんなの、福知山線脱線事故でも同様だったんだし。


 自民党は、「原発事故調査委」を独自法案として国会に提出するに際して「政府が設ける調査委では独立性に問題があると判断した」としていて、この指摘はもっともです。
 政府案の「事故調査特別委員会(仮称)」の方では、委員会メンバーを「菅直人首相が指名する」としてるからです。ここは、なんとかした方がいい。


 でも、一方、「原発事故調査委(自民党案)」で、「今後の規制・監督のあり方に関する提案」もすると、してるとこ。これを、今の国会で「調査」するのは、ハッキリ言ってマズいです。
 これまでの「規制・監督のあり方」の大筋を決めてきたのって、長期政権時代の自民党なんだから。
 民主党が政権採ったのなんて、ほんの2、3年前(2008年9月)のことじゃん。

 だから自民党が最大野党になってる今の国会で、「今後の規制・監督のあり方に関する提案」なんてのを、まとめるのはよくない。止めといてちょうだい。

 ここはどうにかして、第3者的な、独立検証委員会を組織してもらわないと。


 アタシが思うには、例えば、国際原子力機関IAEA)の、天野之弥事務局長に「メンバーの推挙」をお願いできたらいいと思うんですよね。
 一案にすぎないですけど。

 調整のための事務方は、例えば、「原子力発電関係団体協議会」を通じて、原子力関連施設を抱えてる地方自治体に職員の方を派遣していただけたらいいと思います。
(「原子力発電関係団体協議会」は、原発など原子力関連施設が立地してる地方自治体の知事さんで構成されてる団体)

 で、天野之弥事務局長(でなくても、他に適当な方がおられれれば、結構)に「メンバーの推挙」をお願いして、推挙された方との折衝は、政府からも国会からも独立した事務方にお願い。
 メンバーの承認だけは、今の首相にやってもらう、と、こんなふうにしてけばいいんじゃぁないかな。

 もし、どうしても、って言うなら、国会からの外部委託って位置づけでも、いいです。
 あくまで、背景の検証をする委員会は、国会内には設けないで、国会からも政府からも独立した、第3者委員会でやってもらう必要がある。

 自民党が、独自に、過去の原子力行政は間違ってた、って根本的な自己検証、自己批判を、きちんと公にした後なら、「国会内調査委員会による背景検証」考えてあげてもいいですけど。
 だいたい「原発を守るため」に「エネルギー政策合同会議」作ってるような自民党に「今後の規制・監督のあり方に関する提案」なんて任せらんないじゃぁないですか。
 自民党、せめて「原発のメリット、デメリットとリスクとを検証する」くらい、やる気になんないもんかしらね?


 なんにしても、「事故の責任所在の調査」と、「背景の検証」は、いっぺんにやんない方がいいんだわ。どっちつかずになるから。
 ここは、マスト。


参考記事:
 以下に、政府案の「事故調査特別委員会(仮称)」、自民党案の「調査委員会」。それぞれの概要を報じてる報道を引用させてもらいます。

東日本大震災:福島第1原発事故 海外専門家も助言 3チームで検証−−事故調査毎日jp、5月12日付け)
 東京電力福島第1原発事故の原因を究明する「事故調査特別委員会」(仮称)の概要が11日判明した。菅直人首相が指名する法律や地震の専門家ら約10人で構成。海外の専門家による外部組織の助言も受ける。設置について近く閣議決定する。
 事故をめぐっては、東電や政府の初期対応の遅れ、海外諸国への説明不足、原子力安全を担う原子力安全委員会の機能不全などに批判が集まった。このため委員会は事故の検証に加え、原子力安全規制の改革にも踏み込む方針だ。本委員会の下に(1)事故原因(2)被害拡大防止対策の検証(3)法規制のあり方−−の三つの検討チームを設置。原因調査究明について「国民に開かれた中立的な立場で多角的に行う」としている。
 委員会は、原子炉工学、地震学、放射線安全学などの専門家や法曹界、財界、地元自治体代表らで構成。真相解明のため必要に応じて、関係閣僚や官僚、電力会社、国際原子力機関IAEA)関係者に出席を要請する。一方で海外の専門家による助言組織を設置。米、仏、露など原発を抱える国の専門家に参加を依頼する。
 委員会は内閣直轄とし、調査・検証の対象となる省庁以外の職員で事務局を構成する。年内に中間報告、来年夏をめどに最終報告をまとめる。
 枝野幸男官房長官は11日の会見で「(検証)結果だけではなく、プロセスも含めて全面公開したい」と述べ、情報公開を進める考えを示した。【足立旬子】

自民、原発事故調査委で独自法案 独立性確保へ共同ニュース、2011/05/12)
 自民党は11日、福島第1原発事故の原因や責任を解明する調査委員会を国会に設置する独自法案を議員立法で今国会に提出する方針を決めた。政府が設ける調査委では独立性に問題があると判断した。法案は調査委から原子力関係者を極力排除し、証人喚問を含めた強い調査権を付与するのが柱。東京電力や行政機関だけでなく、菅直人首相や閣僚の対応も検証対象とし、菅政権の危機管理を追及する狙いだ。
 公明党みんなの党など他の野党に共同提出を打診。ただ成立には民主党の対応が焦点となる。
 首相は10日の記者会見で政府の調査委について独立性、公開性、包括性を原則とすると表明。しかし自民党幹部は「事故対応に疑念が持たれている政府の中に設置して、世界の信用が得られるのか」と指摘している。

 法案骨子は塩崎恭久官房長官らが中心となってまとめた。調査委の目的を(1)原発事故に至る経緯・原因の解明(2)今後の規制・監督のあり方に関する提案―と規定。会議は原則公開で、設置から6カ月以内に報告書を国会に提出するとしている。東電など関係者に資料提出を義務付けるほか、証人喚問での虚偽証言には罰則を設ける。

 メンバーは国会議員以外から10人を任命し、委員長を含む9人については「原子力放射線分野の学識経験者以外の者」とする。1979年のスリーマイルアイランド原発事故の米大統領特別調査委(ケメニー委員会)をモデルにした。
 海外への透明性を高めるため、国際機関や外国政府機関の職員らを参与として任命できるとの規定を盛り込んだ。国際原子力機関IAEA)や米原子力規制委員会(NRC)を想定している。