この夏の原発再稼動は、時期尚早でしょう

 野田首相は、「この夏に電力需要がピークを向かえる時期までに原発再稼動できるように、各原発施設立地自治体の理解を得る」旨、公言してます。
 その後、「与党民主党内からも時期尚早との意見が出てる」とかも報じられてますけれど。

 野田首相自身が、公に前言撤回したとも聞いてませんので、今でも「今夏までの再稼動」は、首相公約になってるはず。
(その辺、26日、27日にソウルで開催される「核安全保障サミット」で、首相が何を言うのか、要注目と思います)


 さて、アタシ個人は、「原発施設の再稼動は、原子力規制庁が発足した後、新体制でのきちんとした精査、検討を経て」て意見。
 ですから、民主党内の原発事故収束対策プロジェクトチームの意見「原発再稼働は時期尚早」の方が、うなづけます。

 原子力規制庁の発足に、3ヶ月かかるのか半年かかるのかは、知りません。
 国会で必要とされる期間だけ、検討してください。
 ただし、その間は、「国内のあらゆる原子炉施設は運転休止」にしてもらわないと、てのがアタシの意見です。


 こう書くと、必ず「日本経済にダメージが」て対抗意見が聞かれるはずですけれど。
 ここでアタシが言ってるのは、原子炉の「運転休止」。「廃炉」ではありません。
(再稼動か廃炉かについては、施設ごとに、周辺の広域も含めた住民投票に計るべきでしょう)


 日本経済が、原発の「運転休止」に伴うひと夏やふた夏の節電で、再起不能になるほど弱弱しいとは、アタシは思っていません。

 アタシは、1960年生まれでして、1970年代はじめと、70年代末〜80年代初頭にかけての2次のオイルショックの時は、ちゃんと物心がついていました。
 あの頃の大人たちも「日本経済は沈没する」みたいな風評におびえていましたが。実は、日本経済は、大きな危機を迎えて「それまでの方向から大きく舵をとった」後の方が活力を持つようです。
 2次のオイルショックのときもそうでしたし、1980年代後半の円高不況の後もそうでした。

 もちろん、原発の「運転休止」で日本経済がノーダメージで済むとも思っていませんけれど。
 ここは、「捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」と構えた方が、中長期的には、いいように思います。
(ちなみに、アタシは原発容認派で、中期的には、電力供給率を20%〜25%程度に押さえ込んでく方向がベスト・ミックス、て考えでいます)


 ただ、原発施設を抱えてる大手電力会社は、そんな悠長な構えもとれないでしょうね。
 それはわかります。
 大手電力会社にしてみれば、少しでも早く原発再稼動の既成事実を作りたいだろうことは、想像できます。

 だからと言って、3.11よりも前の旧態然とした体制で、なし崩しに再稼動されることが、いいこととは思えません。


 さて、23日付で、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」が公開した記事「国内の原発事故対策、依然進まず」(“Japan's Nuclear Crisis Plan Still Lags”by Chester Dawson の日本語訳)は、「この夏の原発再稼働が、果たして時期尚早かどうか」アタシたち、日本国民が、それぞれ考えていくのに、とても参考になる記事と思えます。
 原発推進派だろうと、反原発派だろうと、中間派(容認派や現状維持派)だろうと、参考になる。

 ことに、原発施設立地自治体で暮らしてる方々、原発で事故が起きたら被害が及ぶ可能性のある範囲で暮らす方々、そして、原発事故が起きた場合、最初に被害者難民を受け入れることになる地域で暮らす方々の参考になるはずの記事です。


【参照用コンテンツ引用】

Chester Dawson「国内の原発事故対策、依然進まず(Japan's Nuclear Crisis Plan Still Lags)」(ウォール・ストリート・ジャーナル 日本版,2012年 3月23日)
福井県敦賀市】 国内の原子力発電所の再稼働をめぐって重要な決定がなされようとしているが、驚くべき障害が明らかになっている。国内原発の周辺住民数百万人に対する緊急時計画は国際基準をはるかに下回っている。
 その結果、福島第1原発事故の際の避難区域内に十分入っているとしても、自治体の多くは今後発生する可能性のある同様の事故への準備が十分でないとみられる。

 今後数週間以内に、野田佳彦首相は福井県に当地の原発再稼働を正式に要請する見通しで、さまざまな論議を呼ぶことになるだろう。また、4月上旬までには、緊急時計画の不足に対処するために防災指針が改定され、新指針では、国内の原発再稼働が一段と難しくなる可能性がある。それぞれの自治体に地元で原発を容認する意向があるかどうかについてさらに意見を求めることになることが一因だ。


 昨年の福島第1原発事故を受けて、国内では原発の稼働停止が相次ぎ、国内の発電能力は3割ほど落ち込んでいる。現在稼働中の2基の原発についても来月下旬までには停止される予定となっている。電力各社は原発のストレステスト(耐性検査)の実施を求められ、経済産業省原子力安全・保安院の専門家による意見聴取会が原発の安全基準の再評価を始めている。
 こうした再評価で明らかになった最も厄介な事実の1つは、国内原発に最も近い50の立地自治体には、福島第1原発事故の規模ではなく、小さな事故に対処する計画しかないということだ。さらに、政府および自治体の当局者とのインタビューならびに、原子力安全委員会がまとめたデータによると、原発に最短の地域より外側の数十の地方自治体では、福島第1原発のような事故に対処する計画が全くない。

 原子力安全・保安院のデータに関するウォール・ストリート・ジャーナルの分析によると、国内原発から20マイル(約32キロ)圏内に位置する121の市町村の最大710万人の住民は、警告や避難、空中に飛散する放射性物質に対する医薬品による保護について信頼できる手段を持ち合わせていない。
 例えば茨城県では東海第2原発から18マイル(約30キロ)圏内の14の市町村に約100万人が暮らしている。茨城県の橋本昌知事はインタビューで、「うちの県の場合には、前々から自家用車を使わないと実際的な避難というのは無理だろうということで自家用車を使った防災訓練などもやっているけれども、一般的には自家用車を使えば交通混雑でとんでもないことになるので自家用車を使わないと言われている。ただ、そういったことについて果たして方針を変換していくのかどうか、そういう重要な要素がさっぱり分からない」と語った。

 新設される原子力規制庁の指揮の下、避難区域の拡大基準が来月にも発表される見通し。しかし政府当局者は原子力規制庁によるこうした政策の十分な実行を待たずに、閉鎖中の原発の再稼働を求める見通しだ。野田首相は今夏の電力需要がピークを付ける時期に間に合うように原発の稼働を再開すると公約している。
 ただ、その時期までに原発が再稼働されるかどうかはまだはっきりしていない。国内の電力各社は、再稼働の方向性は認められているものの、世論の反対を受けて態度を保留している。

 政府は原発依存の低減を公約しているが、イタリアやドイツのように、原発の全面廃止には言及していない。計画停電や電力不足を経験せずに夏のピークを乗り切ることができれば、わが国には原発が必要だという政府の主張が弱まることにもなりかねない。

 現在の防災指針で定められている「防災対策重点地域(EPZ)」の半径10キロメートルに代わり新たに半径30キロメートル圏内の「緊急時防護措置準備区域(UPZ)」に指定される圏内に入る地方自治体の多くは、災害対策が整うまでは原発再開には反対の意向だ。医薬品の蓄積といった基本項目で6カ月、新たな避難ルートの整備といった一段と大きなプロジェクトでは数年かかるとみられている。
 4月の指針改定では国内で採用されている現行の半径10キロのEPZに代わり、2段階からなるシステムが採用される見通しだ。つまり、小さい事故の際の3マイル(約5キロ)の緊急避難区域と、大事故の場合の18.6マイル(約30キロ)に及ぶ避難区域だ。同計画では新たな避難ルートおよび放射性物質を避ける避難所、放射線予防薬の準備、放射線測定場所のネットワーク拡大などが必要となる。

 この指針改定により、初めて国際原子力機関IAEA)の勧告に沿うものになるとともに、10マイル(約16キロ)の避難区域と50マイル(約80キロ)の食品・水の汚染地域を指定する米国の規定に近いものとなる。

 福島第1原発事故を受けて、原子力安全委員会原子力防災指針の見直し作業を進めている。同委員会は、既存の指針では現行の避難区域内に位置する地方自治体に対し、「日常生活に支障をきたさない」方法で、小規模な事故に備えるよう求めているにすぎない、と指摘した。また、委員会の調査で、原発の立地自治体のなかにはその程度の計画もないことが分かった。

 福井県の場合は、海岸沿いに13基の原子炉が位置し、なかでも敦賀市には原発2基が存在する。敦賀市に派遣された原子力安全委任命の専門家による昨年11月の調査では、緊急時計画は「不十分」との判断が出された。
 例えば、この専門家チームの追加報告によると、敦賀市の避難センターの1つは原発の入り口からわずか0.5マイルしか離れていなかった。また、敦賀市街の約8万人の住民に屋内にとどまったり、避難するよう警告する拡声器は全くなかったという。

 さらに同報告書によると、山地が海に迫る半島に位置する原発には、緊急救援隊が到着して住民を救出するのに狭い曲がりくねった道が1本あるだけだ。敦賀市立石地区の原発の裏手数百メートルの地域に住む72人の住民のうちの1人で漁師の浜上秋良さん(92)は、「1つの道しかないんで、逃げる方法がない」と話す。

 敦賀市の緊急指令センターは同原発から8マイル(約13キロ)の海沿いにあり、海抜わずか6フィート(約1.8メートル)に過ぎない。そこには無線のコミュニケーション手段はなく、放射能で汚染された大気を浄化するフィルターもついていない。
 敦賀市の状況は海岸線に位置する原発の多くの典型とも言える。米国の場合と異なり、原発の場所を選択する際の日本の基準は集団避難の可能性を考慮したものではなかった。防災指針の見直しを進めている国の原子力安全委員会防災指針検討作業部会の本間俊充主査は、それについて真剣な検討がなされなかったことは今では明らかだろう、と語った。

 原子力安全委員会は、最近では2007年に、原発の防災対策重点地域を18マイル(約29キロ)以上に拡大することを求めるIAEA勧告を、本間氏をはじめとする専門家の助言に基づき拒絶した。委員会は日本では深刻な事故は「技術的に起こり得ない」とする既存の指針を堅持した。

 その翌年、こうした政府の自信の証拠が示された。08年10月、福島第1原発で2日間に及ぶ防災訓練が実施された。この訓練では、原発の送水ポンプが壊れ、冷却システムが作動せず、50ミリシーベルト放射線量(原発作業員に対する年間の平均上限の2倍超)が放出されたと仮定された。
 訓練シナリオでは、漏れた放射線原発から1.2マイル(約1.9キロ)以内にとどまり、原発事業者による迅速な対応で被害は数時間のうちに食い止められた。周辺の2つの町の全住民1万8109人のうち、ごく一部の約1858人が、保育園と体育館の2カ所に避難した。ともに、原発から2マイル以内の距離にある。

 しかし、福島第1原発が震災に見舞われた昨年3月、こうした仮定が楽観的だったことが証明された。福島第1原発周辺では毎時400ミリシーベルトと極めて高い放射線が観測された。これは訓練での想定量を8倍上回るものだ。実際の事故では原発から最大30マイルの周辺住民数万人が避難を余儀なくされた。

 近く改定される指針では、避難計画地域が、現行指針で規定される原発立地自治体の範囲をはるかに超えるものに拡大される。30キロ圏内となる改訂後の同地域は、原子炉2基の敦賀原発周辺の場合、琵琶湖の北端に達する。琵琶湖は京都府大阪府の住民をはじめ約4100万人の飲料水の水源となっている。
 長期的な影響については依然明らかではないが、これまでのところ福島では放射線の被曝による死亡や病気の報告はなされておらず、健康への影響も現時点では懸念されたほどではないようだ。


 原発周辺地域の地方自治体の当局者のなかには指針の改定に異議を唱えている者もいる。住民や企業が懸念を深め、土地を離れてしまうのではないかとの思いが背景にある。敦賀市の河瀬一治市長はインタビューで、立地自治体は危険な地域だとみられるのは避けたいと語った。さらに、原子炉が最高の安全基準を満たす限りは、周辺自治体には懸念はない、と強調した。

 河瀬市長が率いるグループ(数十の原発の立地自治体を代表する)はここ数カ月間、原子力安全委員会に対し2回にわたって避難計画地域の拡大を再考するように嘆願するとともに、集団避難は実行不可能だと批判した。

 また、改定後の新規定でも十分ではないとの見方もある。既存指針の下では、原発の運営事業者は原発の立地自治体と話し合う必要があるが、近隣の風下の自治体との協議は義務付けられていない。そのため風下に当たる都市の自治体関係者らは苛立ちを強めている。というのも、原発を運営する電力会社に対し意見を表明する正式な手段がない上、原発立地自治体に交付される政府や業界からの補助金の対象ともならないからだ。

 藤村修官房長官は16日、定期検査で運転停止中の原発の再稼働手続きで、事前に説明して合意を得る地方自治体の範囲を、原則として原発から半径10キロメートル圏の自治体に限る考えを示唆した。これを受けて、10キロ圏外ながら原発に比較的近い一部自治体から反発の声が上がっている。

 緊急時の対応計画について現在、見直しを求められている自治体の1つは京都府舞鶴市だ。人口は8万7000人で、自衛隊舞鶴基地もある。
 舞鶴市の境は高浜原発から6マイル(約9.7キロ)圏内にあり、舞鶴市には数百世帯を避難させる基本計画はある。同市は住民に原発事故に関し、「窓を全部閉めてください」とか、「口にハンカチを当ててください」「帰宅したら顔や手をしっかり洗って下さい」といった基本的なアドバイスを記したハンドブックを支給している。


 原発の防災指針で定められている「防災対策重点地域(EPZ)」の半径10キロメートルに代わって新たに半径30キロメートル圏内を「緊急時防護措置準備区域(UPZ)」に指定する案が実現すれば、初めて舞鶴市全体が重点地域内に入ることになり、深刻な事故が発生した場合には市全体が避難の対象となる可能性が高まる。
 医師でもある舞鶴市の多々見良三市長は、5月までに市の暫定計画を策定すると表明した。計画には、市役所の全機能を一時的に他の場所に移したり、避難ルートを策定し始めることなども含まれる。多々見市長はインタビューで、「(深刻な事故に際して)われわれ全部が逃げなければならないのであれば、(周辺自治体ではなく)立地自治体だ」と述べ、「同じ被害を受けるものについては、(立地自治体と)同じような(原発)再稼動判断をさせていただくのが普通ではないか」と語った。

 近い時期の原発再稼働が可能か――そして、周辺自治体の準備が整っているか――を試すケースは、福島県おおい町に位置する大飯原発の4基の原子炉だ。大飯原発はかつて京都府大阪府の消費電力の最大20%を供給していたこともあった。

 国内の公益事業関連当局者や原子力安全・保安院(NISA)は、大飯原発の2基の原発について再稼働を検討している。公益企業の幹部やNISAの当局者らは、大飯原発の第3号機と第4号機は、福島第1原発事故後に導入された「ストレステスト」を最初に合格する見通しだとしている。
 NISAの報告書は、ストレステストで、大飯原発とその使用済み燃料棒が「想定基準の1.8倍の地震に見舞われても」引き続き冷却可能であることが示されたと指摘した。
 また同報告書によると、11.4メートルの津波にも持ちこたえられる見込みだ。同報告書は、歴史的な記録では、福井県おおい町では同水準を超える津波は示唆されておらず、同原発には災害の脅威に対処する「十分な余地」があると結論付けている。

 しかし、地元当局者らは、災害の可能性は小さいかもしれないが、可能性への十分な備えはできていないと語っている。敦賀市の場合と同じように、大飯原発周辺住民に対し指定された緊急避難所は原発の入り口から0.5マイル(0.8キロ)弱の学校となっている。また、おおい町の災害警告システムは約2.4メートルの位置に設置された拡声器に主に頼っている状況だ。
 緊急時指令本部は海辺から数メートル程度しか離れておらず、海抜は約1.8メートルだ。大飯原発が位置し周辺住民が暮らす半島からの唯一の避難ルートは8キロほど続く崖に面した道だけで、この道は約640メートルの2車線の橋につながっているが、冬場はこの橋は凍りつく。

 おおい町総務課の新谷博樹主査は「今調査中だ。数年前から新しい道路が必要だという話があったが、今まで作っていない状況だ」と語る。