「海外ネットワーク」(NHK総合):現地レポートの出来と、報道番組の水準

 NHK地上波の「海外ネットワーク」は、海外ニュースや、海外と関連した国内ニュースを報道する番組。毎週週末に週イチで30分強の放送です。

 14日の土曜日放送された番組は、地味めだったけど、出来は概ね良かったです。
 ちょっとキツい言い方すると、「水準点は越えたまとまりの良さ」だったと思う。
 視聴者に訴えかけてくる報道の力強さが、群を抜いてたわけではないけど、「概ね良かった」ってのが、アタシの評。
 同じ番組で比較すると、例えば4月30日に「チェルノブイリ原発事故から25年」に重点を置いて報道された回の方が、もっと出来が良かった。でも14日放送分も悪くなかったんだわ。


 14日の放送分では、やや長めのレポート2本を、ゲストも交えたスタジオトークでつないだ後に、時事解説のコーナー「世界あす読み」を入れて。終盤は、短めにクリップした(編集した)報道レポート(画像レポート)に被せるようにスタジオコメントもつないで終了。
 この構成、番組の基本的パターンなんですけど。
 長めのレポート2本が、それぞれ観やすかったな。
 実は、出来の良し悪しもあったけど、NHKの海外報道番組でやるレポートの内では、視聴者にとってユーザー・フレンドリーな観やすさがあって。ここはいいとこ。


 もうちょっと具体的に書いてみましょう。

  • 最初に報じられたのは、「アメリカ(U.S.A.)で開発が進むシェールガス」のレポート+スタジオトーク。トータルで、概ね15分前後。
  • 2本めに報じたのは、「ツイッターの交流を通じて、東日本大震災被災地にフィンランドから届けられた、パック入り液体ミルク」のレポート+スタジオトーク。トータルで、概ね10分弱。
  • 番組メイン・キャスターの二村伸アナが講じる時事解説「世界あす読み」は、概ね5分弱。14日放送分は「EU諸国(の多く)で強まる入国管理強化」の話題でした。ヨーロッパ諸国での、北アフリカ、西アフリカからの移民対策の動向解説ですね。番組では、「中東の政変」って言ってましたけど。

 さて、アタシの個人的な評を、簡単に書くことからはじめてみます。

 「アメリカのシェールガス開発」の話題は「現地レポートには欠点が目立った」んですけど、スタジオトークでカバーされてました。ここは二村アナが頑張ってて、貢献大だったわね。
 コーナーのトータルな出来は、まぁまぁ悪くない。

 「ツイッター交流を通じて、フィンランドから被災地に届けられた乳児用液体ミルク」の話題は、現地レポートの出来が、はっきり言って良かったです。

 「EU諸国の入国管理強化動向」の時事解説は、「好感の持てる水準作」だったと思います。
 NHKに限らず、ニュース番組で、時事解説コーナーってよくあるんですけど。水準としてはこれくらいの出来をクリアしてくれないとマズいわよね、とか思ったり。


 14日放送分トータルなアタシ評価は、「概ね良かった」になります。
 この評価、アタシは批判のために書いてるつもりはないです。

 ドキュメンタリー番組と違って、ある程度の速報性、(事件との)同時進行性が強い報道番組(広い意味での)では、水準が高くなる方がいい。
 つまり、平均点が高いほうが、すごくできのいいレポートを期待するよりいい、ってこと。
 「すごく出来がいい」報道は、単独のドキュメンタリー作品とかに期待したいです。
 それは、突出した訴求力のレポート報道とかがあった方が、無いよりはいいけれど。
 日々報道される番組には、突出した出来のよさよりも、報道の公正さ(フェアさ)や、水準の高さを期待したいと思います。


 実はアタシ、前は「海外ネットワーク」は、いい番組だけど特色には乏しいて感じてたですけど。最近、ちょっと個人的評価が好転。
 突出した出来のよさよりも、安定した水準を維持してる「海外ネットワーク」、いい番組よね、と評価を改めてきてますです。


シェールガスのレポートの目立つ欠点
 「アメリカのシェールガス開発」を報じたコーナーは、「現地レポートには欠点が目立った」けど、スタジオトークで二村アナが欠点をカバーしてた。

 でも、考えると、これちょっとおかしいんですね。
 てゆーのは、放送された現地レポート多分、NHKに関係した下請け的な製作会社が製作したんだと思えるから。(NHKアメリカ支局の製作ではないと思えます。もしかしたら共同制作の体制かもしれませんけど)


 シェールガスというのは、天然ガスの類ですけど。普通の天然ガス層よりも深い地層に散在してる。普通の天然ガス田みたいな大きな塊をなしてなくて、頁岩(シェール)層って地層のあちこちに少量ずつ別れて散在。
 日本のような島国には多分無くて、大陸部だと深い頁岩層に広く分布して散在してる。
 アメリカでは2005年頃までには、本格的な採掘がはじまりました。

 けれど、この本核的採掘を可能にした、新開発の採掘方法(水圧破砕法)には問題がある、と強く疑われてて、アメリカではシェールガスの採掘に伴う、と疑われる広範囲な環境汚染が、過去数年来、社会問題になってる。

 ところが、14日放送分の現地レポートは、広範囲な環境汚染の扱いや、採掘方法への疑惑についての言及が甘かった。
 環境汚染の件に、触れてはいるけど、「どれくらい広範囲に広がってるか(地下水だけでなく地表の水系にも汚染は広がってる)」の報道が甘く、「一部の州では州政府の判断で開発が許可されていない」件についての言及が無い。総じて、ガス開発と環境汚染の関連疑惑(開発会社は公には認めてない)の件を小さめ控えめに報じてる。

 「シェールガスの開発と、環境汚染の関係」レポートで報じてないわけではないんですけど、冒頭からかなりの時間を割いたレポートでは、ガス開発による恩恵の面を強く印象づける取材をして、終盤、補足的に「地下水汚染の疑惑や批判運動もある」的に報じてる構成でした。
 公正(フェア)な報道に必要なバランス感覚は、良くないです。

 シェールガス開発による環境汚染が、大規模開発に必要な新開発の採掘法自体が原因になってる、って指摘もあることに触れてないからだろう、と思えます。
(この件の概要については、例えば、ナショナルジオグラフィックニュースで公開されてる記事「天然ガス採掘でメタン汚染の可能性」で報じられてます)


 なんで、報道としてはこんなにアンバランスな現地レポートになっちゃったか?
 具体的な経緯は、もちろんわかりません。
 わかりませんけど、アタシが思うには、、「レポートでは、福島原発事故以降の原子力発電見直しの世界的な動きの内で、シェールガス採掘に注目が集まってる」かのように、視聴者の印象を誘導しようとする構成やナレーションが採用されてたからだろう、とは思えます。
 そういう筋で、話をまとめようとする意図が強すぎて、報道としては公正さが損なわれた。番組を観ての評価としてはそう思える。

 例えばね、スタジオトークの方でも、NHKの女子アナ小林千恵さんは環境汚染問題のことをさして「今、新たな問題も起こってきてます」とか言ってる。これ不精確です、全然「新たな問題」ではない。
 この辺、小林千恵さんの言説責任ってゆーより、番組の製作体制に関わる問題でしょうね、多分。


 「福島原発事故以降の原子力発電見直しの世界的な動きがあるので、シェールガス採掘に注目が集まってる」って分析自体、事実に反するんですね。「元々注目されてたシェールガス開発に、さらに産業界の期待が高まってる」なら概ね正しい。

 経緯としては、アメリカでシェールガス開発が脚光を浴びたのは、アフガン戦争、イラク戦争などの中東不安定化の頃から、アメリカ政府が着手したエネルギー安全保障の新戦略の一環としてだから。2005年にはすでに大規模な採掘が実施されてたって経緯がこれを証してます。
 何も、福島原発事故以降に脚光を浴びた訳ではない。

 レポートは、この辺の経緯を曖昧にぼかしながら報じてて。番組では、レポートだけを観てると、生じかねない誤解を、スタジオトークで、二村アナが補正してる形でした。

 でも、下請け的な製作会社にレポート製作を外注してるなら、あるいはNHKの支局がレポート製作に関与してるのならなおさら、現地レポートを単体で観るだけででも、バランスのとれた理解を視聴者ができるような方向で発注するべきじゃぁないですか。

 ここんとこで、NHKの本社とアメリカ支社、あるいはNHKと外部の製作会社の間でどんなやりとりがあったのか、アタシにはもちろんわかりません。
 アタシはただの視聴者の一人ですから。番組を観てて不審感を強く覚えた、ってだけの話です。


◎「フィンランドから被災地に届けられた乳児用液体ミルク」の現地レポート
 「ツイッター交流を通じて、フィンランドから被災地に届けられた乳児用液体ミルク」の話題は、現地レポートの出来が良かったです。

 レポート画像だけを観ても、視聴者が、それぞれに報じられた出来事について自分なりの評価を抱ける作り、公正さがありました。
 突出して出来がいい、ってレポートでもなかったでしょうけれど。丁寧に作られてて、好感が持てます。

 報道番組で「レポート画像だけを観ても、視聴者が自分なりの評価を抱ける」って読むと、そんなの当たり前じゃん、て思う人もいるかもしれません。
 でも、実際は、注意して報道番組を観てると、決して当たり前でもないです。
 スタジオのキャスターによる論評や、キャスターとコメンテーターのトークを挟まないと、視聴者が評価を下せないようなレポートは、報道番組で結構、観られます。

 これ、必ずしも、「現地レポートの出来」だけの問題でもなくて、「放送局でのレポートの使い方」の問題でもあるんですよね。
 例えば、NHKだと、「首都圏ニュース」とかで使われてる時は、「レポート画像を単独で観ても良くまとまってるレポート」でも、「全国ニュース」で使用される時は、元のレポートをつまみ食い的にクリッピングして、アナウンサーがナレーションでまとめちゃう、なんて例も、しばしな観られます。
 「元のレポートをつまみ食い的にクリッピングして」使われると、損なわれるのは「現地レポートにほしい、現場臨場感」なんですよね。

 地上波総合の「海外ネットワーク」についていうと、「フィンランドから被災地に届けられた乳児用液体ミルク」みたいに、海外と連動した国内レポートに、出来のいい現地レポートが報じられる例、目立つかな(??)。これは印象論ですけど。
 あるいは、番組の制作体制――ディレクターにあたる役職の方の方針、とかが関わってのことでしょうか? 詳しくはわかんないけど。


◎時事解説「世界あす読み」:EU諸国の多くで強まる入国管理
 「海外ネットワーク」の時事解説コーナー「世界あす読み」は、いつも概ね5分前後なんですけど。
 シンプルな時事解説としてよくまとまっていて、論説コーナーになってないとこがいい、と思います。

 二村アナが論説的なコメントを加えないわけでもないんですけど。本当に付けたし的に加えるだけだし。
 そこが喰いたりない的に感じられてる視聴者の方もいるかもですけど。
 何しろ5分前後だし。


 14日放送分の時事解説コーナー「世界あす読み」で言うと、コーナーのメイン部分で「シェンゲン協定の運用が変更された(例外措置の容認)」の経緯をきちんと説明して。関連する各国の政治動向、社会背景などは、軽く言及。

 「メインになる話題を絞り込んできちんと解説」して、その上で、「関連したり派生したりする話題は、補足的に言及する」って構成がいいんだと思うんです。

 時事解説と論説は、本当は分野が違うんですよね。
 野球試合とかの実況中継で例えるとしたら、アナウンサーが報じるのが「時事解説」にあたって、解説者がさしはさむ論評が「論説」にあたる。

 「時事解説のふりをした論説報道」だと、「きちんと解説された話題」と、論説部分との脈絡が薄弱だったりしがちなんですよね。NHKの報道番組でもママ見受けられます。


 アタシの考えでは、時事問題についての「論説」なんて、報道番組では、軽々しく放送しない方がいいと思うんですね。ゲストが、個人意見を論評として、色々ある諸説の一説とわかる形で報じるは、むしろいいことだけど。
 局としての公式見解みたいな論説は、もし報じる必要があるんだったら、それなりの手間も準備をかけた番組できちんと放送すべきです。
 速報性や現場臨場性が重要な報道番組で、片手間のようにやるのはよくない。

 特に、狭い意味での報道と、論説とをまぜこぜにして報じるような形はよくない。
 よくないんだけど、意外と多いのよねこれ。

 「海外ネットワーク」でやる「世界あす読み」コーナーは、5分前後って時間の短さのせいもあるでしょうけど。余計な論説めいたことは滅多に言わない。時事解説に徹してて、地味だけど好感が持てます。