サンデー・フロントライン:今週は、事実上の“3.11から半年特集”で、割と観れた

 テレビ朝日系で毎週日曜放送されるニュースショー形式の「サンデー・フロントライン」
 9月11日の放送分は、普段3部構成の番組が、2部構成に。
 事実上、“3.11から半年”の特集で。順当だとは思えたし、割と観れました。

 「サンデー・フロントライン」は、先々週の(8月28日)放送分も「(民主党)代表戦スペシャル」で2部構成だったんですけど。今週の方が「2部構成にしたこと」には納得いったな、個人的には。
 ただ、毎週やってくれてる「これがニュースだ!」のコーナーが、今週は割愛されたのは、一視聴者としては残念でした。


 アタシの大雑把な評価では、今週分は、普段のこの番組と比べて中の上〜上の下くらいの出来。2時間枠の番組をトータルに均した評価です。

 今週出演のコメンテーターは、東京大学大学院教授の藤原帰一さん、同じく東京大学大学院教授、姜尚中さんのおふたり。


 番組冒頭では「野田政権に痛撃/就任9日鉢呂大臣辞任」。
 このニュースについては、色々、悩ましく考えることの多い一連の出来事が関わってます。
 アタシの個人的意見では、鉢呂氏は大臣職(経産大臣)、辞任してよかったと思う。
 野田首相が、事情を聴取した上で免職処分にしても良かったくらいだろうと思うんですけど。「サンデー・フロントライン」の報道によれば、野田首相と進退について面談した時点で鉢呂氏側が、辞任を申し出て首相が受諾したって形だそうです。

 アタシが思うには、まず「残念ながら(福島原発の)周辺町村の市街地は、人っ子ひとりいない、まさに死のまちという状態でございました」は、これは失言にはあたらないと思います。
 自民党の大島副総裁は「希望を被災者のみなさんから奪うような発言をすること自体、失格に値するような言葉ではないかなぁ」とか記者会見で言ってましたけど。こーゆーのは揚げ足とりとしか思えません。

 原発事故の被害者(震災の被災者と一緒にしてはいけない)の間にも、「いつ戻れるのか、はっきりしてほしい」とか、「戻れる目処が何年もかかるんなら、残念だけど、転出も考えなくては」と言った声も聞かれていることは、各局の取材でも報じられてます。

 「周辺町村の市街地は、人っ子ひとりいない」、いれない状況にあることを「死のまちという状態でございました」と報告するのは、こっちの方が現状認識としては正しい。
 「いつ戻れるのか」はっきり打ち出せないままに、ぬか喜びのような「希望」を口にする政治家の方が不見識。どこの党の政治家さんだろうと。


 けれど、その後を追うように報じられた「議員会館で、記者に『放射能をつけたぞ』などと語った」件は、こっちはアタシは、辞任するしかない暴言だと思います。失言とすら思えない。

 何故か。

 番組中、コメンテーターの藤原帰一さんは「放射能が理由になって差別されることをおそれてらっしゃる方がたくさんいるなかで、それに大きな刺激を与える発言ですから。これはお辞めになるのが当然だろうと思いますね」って言ってた。
 実は、アタシが観てる範囲の報道番組だと、鉢呂氏の“失言”のどこが問題なのか、藤原さんほどにも言ってる人、あまりみかけないんですよね。

 ちなみに「放射能が理由になっての差別」が、数は少なくてもあった、って報道は、一部の活字メディアでは見かけますね(その後も断続してるかどうかは、アタシにはわかんない)。例えばアタシは、日本語版の「ニューズウィーク」で、それなりにまとまった報道を読んだことがあります。この類の報道も、なぜかTVの報道番組ではみかけないと思うんですが。


 鉢呂氏の辞任に至った一連の出来事では、TVに限らず、報道マンの多くには、単に「失言だ」と言いたてるような姿勢が目立ってたと思います。
 そして野党の政治家にも、「どこが問題なので“失言”にあたるのか」を言わずに、世論を扇動するようなことしか言ってない例が目立つ。
 まあ、「差別を助長するもので、失言です」とか、ハッキリ言っちゃうと、野党の側にも叩かれるべき暴言言ってる人はたくさんいるので、言いづらいんでしょうけど。

 それじゃぁ、事も分けずに鉢呂氏を擁護しようとした与党の一部議員と、どっちもどっちですよね。
 与党も野党も、実の無い脚のひっぱりあいは、いい加減にしてほしいんですよね。


 続けての報道は、「あの時何が起きたのか・・・カメラが見た大津波」と題して、震災当事、大津波被災地で録画されたビデオ画像の紹介と、ビデオ録画者に最近おこなった様子のインタビューを構成。
 岩手の大船渡市や、宮古市で録画されたビデオには、撮影した人や、当日近くにいた人の苦鳴のような言葉がはっきり入っていて、半年後の今観ても、生々しい。
 こうした、震災当日、思わず発せられた言葉が記録されたビデオ画像は、震災直後も報道番組で観ることはできたけれど。視聴者は、大津波の圧倒的な破壊力の方に気を飲まれがちだったと思います。少なくとも、アタシはそうでした。

 今回「サンデー・フロントライン」で紹介された被災記録の画像は、おそらく、被災地当日の言葉が記録されてるビデオ画像ばかりを、選択的にピックアップしたんだろうと、思うんですけど。
 そうした狙いは、的確だと思うし、被災地の人が生活基盤を根こそぎにされてしまった絶望感を、はっきり伝えてくれてた。震災後半年の報道として、良かったです。


 「あの時何が起きたのか・・・カメラが見た大津波」は、「高台移転・・・雇用・・・苦悩する住民たち」って報道に続いていきました。そして一ったんスタジオにカメラが移って「震災から半年/今も残る課題は・・・」。これはもっとも死者数が多いと統計されてる宮城県で、放送当日行なわれた合同慰霊祭(南三陸町)を中継も交えてスタジオ・トーク

 さらに後、数十分の時間を割いて「姜尚中が行く福島“民難の町”」。
 このセクションは、アタシは良かったと思います。
 てゆーのは、「サンデー・フロントライン」では、震災から2週間後と、3ヵ月後に、やはり姜尚中さんがレポーター役を勤めた、長めの福島レポートを放送してくれてたから。

 姜尚中さん、福島の現地をレポートし続けることに使命感のようなものを抱いてられるご様子。
 アタシが思うには、スタジオでコメンテーターをしてるだけでは、間に合わない、的な意識をお持ちなんじゃぁないかしら(??)。

 ただ、これは書いといた方がいいと思うんですけど。姜尚中さんの過去の福島レポートを観てない人、覚えてない人にとっては、今回のレポート、やや冗長に思えただろう予想はつきます。
 せっかく、現地に入って“脚で稼いだ”現地レポートのはずなんですけど。印象では、現地レポートの焦点がつかみづらいんですよね。
 アタシが思うには、もっと、姜尚中さんと現地の方との会話に焦点を置く作りを考えた方がいいような気がします。もちろん、会話も収められてはいたんですけど。無人になった土地を行く姜尚中さん、ってシーンが多かったので、焦点が散漫になってたと思います。
 「姜尚中が行く福島“民難の町”」は、再度スタジオにカメラが戻って、「現地の人の多くから、被害地のことを忘れないでほしい」って言葉を聴いたって、姜さんの補足解説に。
 姜さんは、現地の被害者の方たちの「忘れないでほしい」には「見捨てないでほしい」って気持ちも含まれてる、と理解されてるそうです。

 震災被災地、原発事故被害地以外のアタシたちにしてみれば、出来事を過去のことと思って風化させない、現在進行形だとみなし続けてく、ってことだろう、って思います。
 おそらく、現地レポートの方も、「忘れないでほしい」って言葉が複数の人から語られたやりとりに焦点をあてて、視聴者の印象に残るような作りにした方が、もっと良かったと思うな。


 そして、報道は、スタジオでの「福島第一原発の今/“最悪”は脱したのか?」って、解説的な報道に移って、事実上の3.11から半年特集は一区切り。
 ここまで、2時間枠の番組のおおよそ、2/3ほどの時間が充てられてたと思います。


 先に書いたけど、今週は恒例の「これがニュースだ!」のコーナーは、残念ながら割愛。
 番組終盤は、特集フロントライン「発掘人物秘話」で、「後藤田正晴 危機管理の“神髄”」。

 アタシは「特集フロントライン」で不定期にやってる「発掘人物秘話」には、元々、そのアプローチについて評価が辛いんですけれど。
 でも、今回の「後藤田正晴 危機管理の“神髄”」は、割と良かったと思います。

 ドキュメンタリー調に仕立てた「発掘人物秘話」の直後、解説にあたるスタジオ・トークで、コメンテーターの藤原帰一さんが、司会役の小宮悦子さんに、後藤田氏が中曽根政権で官房長官をやってたことを「中曽根元総理の方に、田中派閥から後藤田氏を迎えたことに見識があった」と言ってて。

 実際、そうした面は「発掘人物秘話」の内でも切り出されてた。
 例えば、湾岸戦争に際しての、自衛隊派兵に前向きだった中曽根総理に対して、官房長官だった後藤田氏が阻止した形なんですけど。中曽根元総理の談話、「官房長官としては非常に的確な、参謀の判断としては良かったと思いますよ。」も収められてた。
 この部分の談話は、次のようなものでした。

官房長官としては非常に的確な、参謀の判断としては良かったと思いますよ。
 私自体は、最高責任者ですからね。あらゆる問題を考える、と。
 そん中で、安全な道を考えるってのは、官房長官の仕事ではあった。
 そういう意味で、両方がうまく協力しあって、あれがやれたと思いますね」

 中曽根元首相の言葉を借りると「参謀と首相」の拮抗したバランス関係が、うまく回ったんですね。
 中曽根元首相は「両方がうまく協力しあって、あれがやれた」って言ってたわけだけど、これは、アクセルとブレーキのような“協力関係”だったはず。

 藤原帰一さんは、官房長官への招聘を打診された時、中曽根さんに向かって「わしは、あんたのことは嫌いだ」って言ったって、有名な逸話(アタシでも知ってるくらい有名)を紹介してたけど。
 この件が「発掘人物秘話」本編の方で押さえられてなかったのは、いかにも残念。

 ぶっちゃけ、家庭環境みたいなとこを、形だけ伝記風に押さえるようなとこはいらないんですよね。そこまでを「形だけ」ではなくてやろうっていうなら、40分強くらいの長さでは足りないって意味ですけど。

 何にしても、「後藤田正晴 危機管理の“神髄”」には「発掘人物秘話」に共通した欠点も観られましたけれど。充分補う観どころもあって、よかったです。


 今週の番組、トータルについてのアタシ評価は、最初に書いたように上の下〜中の上。割と観れたと思います。

 番組の2/3を使っての、「事実上の3.11から半年特集」は、かなり良かったです。

 一視聴者としての希望にすぎないですけど、「発掘人物秘話」は次週に回してもらって、恒例の「これはニュースだ!」は割愛しないでくれた方が、ありがたかったです。
 あーゆーコーナーは、毎週やることが、「継続は力」に繋がっていくはずだから。