火曜日(6日)放送の“HARDtalk”(BBC)は、エジプト次期大統領の有力候補、アムル・ムーサ氏へのインタビューだった。

 BBCのロングランなインタビュー番組“HARDtalk”。

 BBC WORLD NEWSの日本語放送でも観れる、辛口インタビュー番組で、マン・ツー・マンのディベートって感じの番組です。

 さて、先の火曜(6日)放送分の“HARDtalk”ですが。
 イタリア北部で開催された外交フォーラムに、エジプトから招かれたアムル・ムーサ(AMR MOUSSA)氏相手のインタビュー。番組のメイン・インタビュアー、スティーフェン・サッカー(Stephen Sackur)がイタリアに出かけて、インタビューしてました。

 アムル・ムーサ氏は、2001年からアラブ連盟の事務局長を勤めてるエジプト人。今は、予定されてるエジプト次期大統領選の有力候補の1人、と目されてる。大統領選への出馬表明は、ムバラク前大統領辞任直後の2月下旬のこと。
 ただ、この人、1991年から2001年までの10年ほど、旧ムバラク政権で外務大臣だったもんで、それが選挙に際しての強みにも弱みにもなってるのでしょう、多分。

 番組冒頭、アーバンにあたるパートで、スティーフェン・サッカーはカメラに向かって、次のようなコメントを述べてました。(放送された日本語版を、アタシが聴き取っての引用)

「今日の『ハードトーク』は特別番組をお伝えします。
国際問題に関するフォーラムを、イタリアの北部のコモ湖沿いでやっています。今日はカイロからやって来た、ムッサ氏にお話を伺います。エジプトの次期大統領の有力候補です。
以前は、ムバラク政権の外相でしたが、その後、アラブ連盟の事務局長となりました。
政治を生き残った人物ですが、しかしながら、根本的な変化をエジプトにもたらすことができるのでしょうか?」

 番組本編の最初、インタビュー導入部のやりとりは、こんな風でした。

「ムーサ氏『ハードトーク』へようこそ」
「よろしく、お願いします」
ムバラク大統領は、2月に政権の座を追われました。6ヶ月たちましたが、エジプトは、今、軍事政権が統治していますが。この軍事政権を信用できますか?」
「『軍事政権』というのは表現がおかしいですね」
「なぜですか??」
「これは、軍事評議会です。エジプトを最終的に統治する、管理する当局に権限を委譲するつもりです。
 デモにおいて、人々はそれを支持しました。ゆえに、民衆の支持を得ています。
 同時に、陸軍は民衆のデモを守り、そして支持しました。ゆえに、国中でそこには理解があるわけですね。これは暫定機関の当局であると」
「まあ、しかしながら、当時はそうでしたが、今はどうでしょうか?
 (議会)選挙は11月まで延期となりました。今年、大統領選挙はおこなわれないということですね。当初は1月におこなうという予定でした。
 みんな懸念していますが」
「まぁ、それはわかります。懸念はすべきではあります。
 私たちは、引き続き懸念をすべきだと思います。なぜなら、まだ、エジプトの未来が固まっていないからです。ゆえに、そのような懸念を抱くというのは健全なことだと思います。国の将来について、憂慮すべきなんです。
 選挙の問題ですけれども、私は、『大統領選挙をまず最初におこなうべきだ』と言ってきました、その後に議会選挙をおこなうべきだ、と。私たちは、民間人の大統領が、その選挙のプロセスをですね監視すべきだ、と考えました」
「でも、それはおこらないんですね」
「そうなんです」

 この後、ムーサ氏は、議会選挙を安定した治安状況下でおこなわなければ、と言い、スティーフェン・サッカーは、今の暫定政権に批判的な意見が、エジプトにあることを指摘。ムーサ氏に対する批判的な世論についても質問していった。


 アムル・ムーサ氏相手の討論風インタビュー20分ほどから、終盤2分半弱ほどをクリップした画像ファイルが、右から観れます。⇒ “Amr Moussa: Egypt can be 'the engine' for democracy”
 クリップされた画像には、アサド政権のシリアについての、アムル・ムーサ氏の外交的意見が述べられるあたりからが収められてる。そして、ちょっと話題が移ってから、エジプトはアラブ諸国民主化をリードする原動力になる、エジプトにはそれだけの力がある、みたいな意見表明に。この意見表明は、インタビューのほとんど最後のコメントになってた。


 番組全体を通して観ると、アタシは、アムル・ムーサ氏への批判が、一部の改革派から強く寄せられてる事情も想像つく気がした。
 スティーフェン・サッカーは、「あなたは、アラブ諸国権威主義的な政治家と親交が深いわけですよね」みたいに切り込んでたけど。この言い方は、いいポイントついてると思ったな。
 アムル・ムーサ氏、多分、ご本人の主観では、独裁的なエジプト大統領になる気はないんだろうと思うんですよね。想像だけど。
 同時に、ムーサ氏が、エジプトはこうあるべき、ってイメージしてる民主主義は、結構、権威主義的な方向だろう、って、これは、外国人のアタシが、インタビュー観て思ったこと。


 一般論としては、独裁的でなければ、充分民主的な指導者か、と言えば、そうではない。
 制度は民主主義的でも、運用が民主的でなければ、民主主義としては不十分ってことはあるわけよね。

 ムーサ氏は、番組中、「シリアのアサド大統領は、自国民への暴力行使を止めるべきだ。その後、アラブ連盟に戻ってくるべきだ」って意味のこと言ってたけど。これって、アサド政権に改革路線を要望してるってことになると思う。
 でも、リビアカダフィ政権とシリアのアサド政権とで、“改革路線”と称してるものに、質的な違いがそんなにあるとは、どうも思えない。


 もちろん、エジプト国内には、積極的な世俗派、民主派もいれば、守旧的な層もいれば、イスラム主義の勢力もいる。
 ムーサ氏が体現するようなスタンスに、満足できない人が、エジプトにどれくらいいるものか。これはインタビュー聴いただけじゃぁわかんない。
 アラブ諸国で盛り上がってる民主化要望の動きが、権威者に統制される民主主義を充分なものとして納得するかどうか。これも、国ごとにいろんな事情も、世論のバラつきもあるし、一概に言えない。

 けれど、権威主義的に統制される民主主義では、民主主義としては不十分だって要望は、アタシはわかるな。多分、多数派ではないけれど、決して少数派でもないと思うのよね。


 俗に“アラブの春”と呼ばれる民主化運動は、チュニジアでもリビアでも、イエメンでもパレスチナでも、そしてシリアでも前途多難そうですけど。エジプトの将来にも色々難関がありそうです。
 アムル・ムーサ氏へのインタビューを観た感想として、アタシはそう思ったな。