送電発電分離が「極端な自由化」?? 大型発電所中心形態の方が「極端な独占体制」じゃーん

 今日、日本経団連米倉弘昌会長が、再度注目を集めてる「電力会社の発送電分離の議論について」わざわざ記者会見で、疑念を提起する発言を公にしたそうです。

 複数のメディアで報じられていますし、これからも報じるメディアは増えるかもしれません。(増えるといいわね)


 早い時期に報じたメディアの内では、日本語版ロイターから公開された署名記事(記名=浜田健太郎)が、比較的詳しかったです。

経団連会長が発送電分離に否定的見解、「動機が不純」と苦言ロイター.co.jp、2011年 05月 23日)
[東京 23日 ロイター] 日本経団連米倉弘昌会長(住友化学会長)は23日の記者会見で、東京電力福島第1原子力発電所の事故を契機としたエネルギー政策の見直しで、菅直人首相が今月、電力会社の事業形態を発電と送電に分ける「発送電分離」の議論が必要と発言したことについて、「動機が(原発事故の)賠償問題にからみ不純だと思う」と指摘した。
 米倉会長は「こうした時には極端な自由化を主張する人が出るが、それが正しいかどうか」などと述べ、発送電分離に否定的な考えを示した。 

 菅首相は今月18日の会見で、「日本でも、地域独占でない通信事業が生まれている」と指摘し、電力会社の経営形態について「そういうあり方も含めて議論する段階が来る」と述べ、発送電分離を議論の対象にすべきとの認識を示した。
 東電の次期社長に決まった西沢俊夫常務は20日の記者会見で、発送電分離の議論が浮上していることについて、「主張すべきはしていく」と述べ、従来通り反対していく姿勢を示唆した。米倉会長は会見で、「中長期的に供給能力が十分に(需要と)バランスしていくのかどうか、そうしたことから考えるべき」と述べ、電力業界の主張に同調した。 
 発送電分離は2000年代前半に経済産業省で議論されたが、電力業界の猛反発もあり実施には至らなかった。ただ、従来から経産省の中には、地域独占による供給体制を抜本的に見直し、発送電分離による電力市場の完全自由化を導入すべきと主張する意見がある。
(ロイターニュース、浜田健太郎


 ロイター日本語版ですら、見出しを「経団連会長が発送電分離に否定的見解、『動機が不純』と苦言」としてますけれど。
 送電発電分離議論の「動機が不純」と思うのは、それは、経団連会長の立場からの感想でしょうね。
 大企業による独占体制ができるだけ維持された方が、既得権を守るの都合がいいでしょうから、そうした立場からは「動機が不純」に思えたとしても、仕方ないとは思えます。

 TBSの報道によれば、「動機というのが賠償問題に絡むもので、それは動機不純ではないかと私自身は思います」と報じられてる日本経団連会長の感想ですけど。
 けれども、送電発電分離議論の要点は、そんなとこにはありません。


 ロイターの方の記事が報じてるように、最近の「発送電分離の議論」は、「東京電力福島第1原子力発電所の事故を契機としたエネルギー政策の見直し」で、提起されたものです。
 「エネルギー政策の見直し」、つまりは「従来のエネルギー政策を、一旦白紙に戻して、根本から見直す」関係の議論の筋です。
 経団連会長が「動機が不純と思う」としてる感想は、的外れでしょう。


 また、経団連会長が「こうした時には極端な自由化を主張する人が出る」などと述べたとも、ロイターは報じてますけど。
 これまでのわが国の地域独占体制の方が、極端だったと思えます。
 一般に、自由主義国で、少数の電力会社が送電網と、大規模発電所をこうまで地域独占してる国は、ほとんど無いと、言われてます。


 「中長期的に供給能力が十分に(需要と)バランスしていくのかどうか、そうしたことから考えるべき」と言われてる点は、移行するとして、移行プラン次第ですよね。
 菅首相は、そこも含めて「そういうあり方も含めて議論する段階が来る」と述べた(18日)はずと思えますから、充分な議論を、開かれた形ですればいいだけに思えます。


 むしろ重要なのは、中期的な移行期の問題よりも、送発電分離をする際の長期的な供給網の問題の方でしょう。
 つまり、発電が今よりもっと自由化された場合、利益製が低い地域に電力供給が滞ることが起きてはマズい。
 これはきちんと議論されてくべき問題ですけれど。

 ロイター日本語版ほどではないけれど、初期報道でも、やや詳しかったのは、日経新聞のコンテンツと思えます。
 こちらのコンテンツでは、経団連会長の「『一部で取り入れた米国では汚職を引き起こし、電力の安定供給の問題も解決されていない』として、導入に慎重な見方を示した」とも報じられてます。
 ここで言われてる「電力の安定供給の問題」。これは中期的なプランニングの問題ではなくて、長期的なプランニングの問題だってことです。


 この件については、アメリカでも、安定供給問題の突破口は、スマートグリッド送電網も実用化と目されてるはずです。
 街1つを丸ごと使った実用化実験も始まってて、これには東芝など日本企業も参加してるんですよね。


 つまり、送電発電分離の議論は、前提として、スマートグリッド送電網の実用導入で、従来の大規模発電所をポータルにした送電網を、小規模発電分散型にシフトさせていく、って見取り図を押さないと、偏った議論にしかなんない。

 スマートグリッド送電網も視野に入れた議論がされるのでないと、以前のように、うやむやにされかねません。
 「米国では汚職を引き起こし」って、経団連会長、まるで、過去に日本では電力会社絡み、発電所誘致、ダム建設絡みの汚職が皆無だったみたいな口ぶりじゃぁないですか(笑)。
 こーゆー霍乱煙幕が、もう議論を混乱させる要因ですよね。


 「以前のように、うやむやにされかねません」とアタシが記した事情は、ロイターが記事の方では、末尾で短く報じられてる事情です。

 発送電分離は2000年代前半に経済産業省で議論されたが、電力業界の猛反発もあり実施には至らなかった。ただ、従来から経産省の中には、地域独占による供給体制を抜本的に見直し、発送電分離による電力市場の完全自由化を導入すべきと主張する意見がある。


 送電発電電分の離議論が、今回「再注目」され始めた頃、自民党の谷垣総裁が、さっそく19日の記者会見で「(寛首相は)、行き詰まると大きい花火を打ち上げて人の目を引きつける目くらましだ。」と批判した旨、報じられてました。


 でも、谷垣自民党総裁が言った「かつて自民党政権でも議論したが、難しい問題だ。メリット、デメリットがある。」って、国民生活にとってのメリットよりも、国策民営体制にとってのデメリットを重くみただけにしか思えないのよね。
 低炭素化の最新技術とか、小規模発電を分散化することによるリスク分散とか、再生可能エネルギー発電への依存度をいかに伸ばすかとか、スマートグリッド送電網も実用化とか、「かつての自民党政権」がまともに検討したとは、とてもじゃないけど思えません。

 もうね、自民党は「自由民主党」って看板下ろして「富国財界党」って名前にしてくれた方が、ありがたいんだわ。その方が、党の政策の筋がわかりやすいから。

 そーゆー政党もあっていいから。正直になってちょーだいな。言ってることもやってることも、ほとんど「民主的」でないじゃーん。


 谷垣自民党総裁、19日の記者会見で「(福島第1原発事故を受けた)事態を踏まえ、頭は柔軟でなければならない」とも言ったそうですけど。
 これは、「エネルギー政策の白紙からの見直し」を打ち出してる菅内閣よりも、従来路線に固執してる谷垣総裁や経団連会長の方が、頭が硬いんだとしか思えないわー。