NHKBS「ワールドWaveトゥナイト」:17日放送分特集コーナーの目に余る疵

 NHK・BS1の国際報道番組「ワールドWaveトゥナイト」。
 17日放送分の内、特集ザ・フォーカスのコーナー「“シェールガス”開発最前線」に、目に余るヵ所があったので、批判的に書いておこうと思います。

 同日放送分、他のパートは、この番組の普段の出来と比して、悪くもなかった。
 番組冒頭放送された、「“福島事故を想定”台湾で防災訓練」の報道は、むしろ出来がいいくらいで。いつもこれくらいの報道をしてほしい、って思えました。
 それだけに、特集「“シェールガス”開発最前線」の欠点は目立ちましたし、残念です。


 特集ザ・フォーカス「“シェールガス”開発最前線」の内、特に「それはおかしい」と思えたのは、コーナー後半、スタジオ・トークのヵ所。
 番組メインキャスターである河野憲治さんが、「取材にあたった吉岡記者」と紹介した、吉岡拓馬さんの解説の内におかしな点があった。
 この吉岡氏、所属が紹介されなかったので、もしかしたら、NHKに関係する外部製作会社の人かもしれませんし、NHKの社員さんなのかもしれないけど、その辺は、とりあえずどちらでも構わない。

 吉岡氏の解説には、コーナー全体の公正性、報道としてのバランスを疑わせる、おかしな点がありました。
 それは、「シェールガス/課題は」と題されたセクションでの談話です。

 シェールガスとは、従来の天然ガス田がある地層よりも通例深い地層にあるシェール層(頁岩層)に散在する形で埋蔵されてる天然ガス。従来のガス田と異なり、小規模なガス溜まりが分散的に地層に散在しているんで、旧来工法では採掘できなかったのですが。
 高圧をかけた液体を地層に注入することで、地中に微細な亀裂を無数に走らせて採掘する工法(水圧破砕工法)が実用化され、採掘が可能になった。

 ただし、この水圧破砕工法には、広い範囲の周辺環境に悪影響を与える疑惑が強く抱かれている。
 採掘企業側は、環境汚染と採掘との因果関係を否認しているけれど、例えば、ニューヨーク州議会は、2010年12月に今年の5月まで州内でのシェールガス採掘を禁止(凍結)していました。

 その後、NY州議会が、採掘を許可したかどうか、アタシは調べきっていませんけれど。
 17日分「ワールドWaveトゥナイト」でのシェールガス関連報道、及び解説は、こうした問題の取り扱いが、明らかに不公正と言えるほどアンバランスでした。
 問題のやりとり(解説セクションでのやりとり)を、アタシの聞きとりで文字化しておきます。

吉岡「ネックとして言われているのは、アメリカで今指摘されている環境汚染の問題があります。
(取材画像にナレーション的に被せつつ)こちらは、東部ペンシルヴァニア州の小さな町でディモックというところなんですが。こちら地下水を飲み水として使っていましたけれども、汲み上げるとこのように泡が、あの浮いてくるんですね。『ガスが混じった(水)』というふうに書いてありますが。こうやって火を近づけてみますと、このとおり」
河野「火がついちゃうんですね」
吉岡「はい。これ地下水、ほんとに飲み水として使っていた地下水で。あの、3年前にガス開発が始まった直後にこうした問題が起きた、と住民の方々は話されていました」
鎌倉「(地下水が)濁ってますね」
吉岡「はい。企業側は、住民に、この代わりにミネラル・ウォーターなどを配っているんですけれども。企業側は、開発と地下水の汚染には関係がない、関連がないとしていまして。あるいは保障がおこなわれないことから、今住民側は、企業側を相手取って、裁判をおこしている、と言うような問題もありまして。もちろん、こうした問題をおこしている企業っていうのは、全体の中の本当に一握り、なんですけれども。ひとたび問題が起きると、影響というのは深刻なものがあります。
 そして、先ほどどこでも、あの、どこでもこの地層を掘れば出るんだ、という話がありましたけれども、その開発のエリアがですね、その住宅地域に近づけば、やはりこういったトラブルというのは増えてくる、ということで。例えば、このヨーロッパ、西ヨーロッパのフランスなんかですね、なかなか、ちょっとこういうトラブルは勘弁したいね、ということで、ちょっと慎重な姿勢を示しているというところです」
鎌倉「当然、その開発、採掘にあたっては、当然、環境への配慮ってしていかなきゃいけない問題だと思うんですけど」
吉岡「はい」

 「シェールガス/課題は」のセクションで吉岡氏がナレーションの手法で解説を被せた画像は、取材したけれど、メインのレポート画像には使わなかったもの、なのでしょう、多分。
 それは構わないんですけど、このやりとりでの吉岡氏の発言、「『番組で放送された報道レポート』を取材した記者による解説」であるとされてて。それにしては、おかしな解説になってる。

 まず、シェールガスの採掘ですけど、油田のような大きな採掘井戸を1つ作るって方法ではないんですね。
 一定の採掘エリアに、比較的小さな井戸を多数併設していく。
 ガス床自体が散在してるからです。

 そうした事情で「その開発のエリアがですね、その住宅地域に近づけば、やはりこういったトラブルというのは増えてくる、ということです」、というのが、そもそも解説としては不正確になってます。
 番組でも報じられた地下水の変質(汚染)は、これとシェールガス採掘との因果関係は、採掘会社は否認してるわけですけれど、「住宅地域に近づけば」と言ったことではなく、地下水の水質汚染は広範囲に起きてて、アメリカでは問題視されています。
 例えば、ガス会社が地権者から採掘権を買い取った地域では、牧場の牛に健康被害が出て、痩せ衰えてるなんて様子が、アメリカでは報じられています。
 また、主にメタンガスで汚染された地下水は、地上河川にも流出していて、環境汚染の被害はさらに広域に広がってる。
 従って、環境汚染を引き起こしているのは、「一部の企業」って説明もおかしい。「採掘企業側は、環境汚染の責任を認めてはいないけれど、水圧破砕工法自体の環境に対する害が強く疑われている」あたりが、バランスのいい説明だと思えます。


 採掘会社が否認してる、シェールガス採掘と地下水汚染の因果関係ですが、例えば、ナショナルジオグラフィックニュースで公開されてる日本語記事「天然ガス採掘でメタン汚染の可能性」(2011年5月10日付け)で報じられてます。
 引用しておきましょう。

 天然ガス採掘でメタン汚染の可能性
(Rachel Kaufman for National Geographic News May 10, 2011:ナショナルジオグラフィックニュース


 柔らかい岩石層「シェール層」を採掘して天然ガスを生産する手法が近ごろ注目されているが、それに伴う環境汚染も明らかになってきた。最新の研究では、シェールガス採掘地域の飲み水へのメタン流出を示すデータが初めて体系的に収集され、従来の想定よりはるか遠方でも着火濃度のメタンが検出されている。

 アメリカにあるデューク大学の研究チームは、ペンシルバニア州北東部の60カ所の家庭用井戸からサンプルを採取した。同地では、地下に堆積するシェール層に天然ガスが豊富に存在し、水圧破砕法(フラッキング)によって採掘が進められている。

 報告によると、操業中のガス採掘地では、ガス井に近いほどメタン濃度が上昇しており、また、ある採掘地から1キロ離れた場所でも、着火濃度のメタンを含む飲み水が確認されたという。採掘地付近の井戸と遠い井戸を比較すると、平均17倍のメタン濃度が検出された。

 水圧破砕法は、地下深くの岩石層に水を押し入れ、岩石がひび割れるまで圧力を高め、天然ガスを解放する手法である。環境面の問題が指摘されており、今回の研究もそれを裏付けている。

 アメリカやカナダでは、過去6年間にわたるこの新技術の成功実績により、広大な天然ガスの新貯蔵庫の扉が開け放たれた。シェールガス開発が順調に進めば、2035年にはアメリカの天然ガス生産の45%を占めると見込まれている。アメリカ政府は、世界32カ国でも同様のシェール層が利用可能だとする報告を発表した。

 しかし、天然ガスの主成分メタンによる飲み水汚染がクローズアップされている。本年度のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた映画『ガスランド』では、民家の水道水が燃える印象的なシーンが注目を集めた。

 研究チームのリーダーを務めたデューク大学の環境科学者ロブ・ジャクソン氏は、「シェールガス採掘を今後も続けていくためには、監視体制の拡充、知識の蓄積、そしておそらくは規制強化が必要となる」と述べる。

 メタン汚染の原因が、ガス採掘以外に存在する可能性も残されている。今回の研究では、採掘地からの距離に関わらず、サンプルを採取した井戸の大半でメタンが検出された。ただし、距離とメタン濃度には確実な相関関係が認められている。

 流出の可能性を認める採掘業者もあり、不適切なガス井建設が原因だと主張している。ジャクソン氏は、「ガス井の掘削中、セメントのケーシングに穴が開く可能性はある。その場合は手順を改善すれば解消するだろう。また、手順は適切でも現場が無視しているケースもありうる」と話す。

 ただし、天然ガスの漏洩にはもう一つの経路が考えられる。それは、水圧破砕法そのものがガス貯留層に亀裂を生み出し拡大している場合だ。メタンはこの亀裂から岩石層を通り抜けて上方に逃げ出すことができる。研究チームは、「可能性は少ないがゼロではない」としている。

 採掘業者はこの可能性を否定するが、ここで問題なのは、ガス鉱床と地下水の間に存在する岩石の性質が十分に分析されていない点である。どの州政府も、ガス会社に対して地質分析の実施を義務付けていない。

 一部の採掘業者は環境保護団体と協力して自主的に規制案をまとめ、州政府に提示している。他方、アメリ環境保護庁(EPA)は、水圧破砕法が飲み水と地下水に与える影響について調査を続け、連邦レベルの規制が必要かどうか注視している。

 今回の研究で、天然ガス産業にとって良いニュースが一つだけあった。どのガス井においても、水圧破砕用の化学処理された水や、採掘後に生成される塩分を含んだ液体からメタン汚染の証拠が発見されなかったのである。

 メタンは、飲み水に関して規制対象となる汚染物質ではない。密閉空間で窒息や爆発の原因となることは知られているが、水の色や味、臭いを変化させるわけではなく、飲料適性に影響を与えるのかどうかもわかっていない。

 また、低レベルのメタン暴露が長期的に続いた場合に、人体へ現れる影響を分析した研究は一つもない。「健康への影響がわからないとは、驚くべきことだ。メタンは確かに飲み水に含まれている」とジャクソン氏は憂慮している。

 研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に5月9日付けで掲載されている。

 ナショナルジオグラフィックニュースの「天然ガス採掘でメタン汚染の可能性」は、短いけれど、よくまとまった記事になってます。
 読み比べれば、NHKの番組中、吉岡氏が言っていた解説「こうした問題をおこしている企業っていうのは、全体の中の本当に一握り、なんですけれども」が、とても不正確な解説であることがはっきりわかると思います。


 ナショナルジオグラフィックニュースの「天然ガス採掘でメタン汚染の可能性」が報じてる「デューク大学研究チームの分析」は、全体として「ガス採掘会社の主張と異なり、地下水のメタン汚染とシェールガス採掘の間に、因果関係がない、とは言えない」って指摘。
 問題は、むしろ水圧破砕工法にあり、ガス床が散在している層と地表との間の地層の性質を充分調査せず、「採れるところはどこでも採る」ような運用をしている場合に、汚染が発生しているような並行関係が顕著だ、ってのが、「デューク大学研究チームの指摘」なわけです。
 あるいは「最新の研究では、シェールガス採掘地域の飲み水へのメタン流出を示すデータが初めて体系的に収集され、従来の想定よりはるか遠方でも着火濃度のメタンが検出されている。」とされている。

 少なくとも、吉岡氏は「(採掘地が)住宅地域に近づけば、やはりこういったトラブルというのは増えてくる」とか、「問題をおこしている企業っていうのは、全体の中の本当に一握り」なんて解説をすべきではない。


 なんで、公共放送であるNHKが、こういう不正確な解説を報じちゃうのか??
 よくわかりませんが、アタシが思うには、「話をまとめすぎ」なんじゃぁないか、って感じてます。

 17日放送分の「“シェールガス”開発最前線」だと、「開発最前線」の将来的に有望視されてる側面を中心にして「話をまとめすぎ」なんだろうと思うんですね。
 取材した記者である、吉岡氏のそうした意識が、環境汚染について過小評価的に解説しちゃう不正確さを招いたんじゃぁないか、そういう気がします。

 それにしても、例えば「汚染との因果関係は、採掘会社の方は、否認してますが、関係ありとする指摘もなされています」くらい言っておけば、「不正確な解説」にはならならなかったと思います。
 後、スタジオで吉岡氏の話を聞いてた河野キャスターや、鎌倉キャスターも易々と吉岡氏の解説を鵜呑みにしすぎだとは思います。
 本当なら、話題について事前下調べをしておいて、「でも、これこれのような指摘もあるようですね」と訊き返してほしいところですけど。
 ただ、こちらについては、基本、月〜金まで毎日やる番組で、そこまでキャスターに要求するのも酷かな、と思います。
 結局、「毎日放送する番組」にしては、制作方針が欲張りすぎな番組、なんだろうって思うんですね。この点は、キャスターさんの責任よりも、番組ディレクター(にあたる職責の人)の責任、じゃぁないかしら??


 実は、NHKによるシェールガス開発の報道については、アタシ、以前もこのブログで書いたことがあります。
 地上波総合の方で、週イチで放送されてる「海外ネットワーク」で報じられた時の報道について評じた記事で、5月14日付けで書いた「『海外ネットワーク』(NHK総合):現地レポートの出来と、報道番組の水準」です。

 あちらの記事では、「海外ネットワーク」で、アメリカのシェールガス開発が報じられた時、概略「現地レポートには欠点があったけれど、その欠点は日本のスタジオでの解説で補われた」って書きました。
 「ワールドWaveトゥナイト」のケースは、概ね逆のようになってます。
 放送された現地レポートは、やや偏りもある編集だけど、それだけ観ると一応成り立ってはいる。スタジオの解説で不正確なことを言ってしまったために、かえって、レポート画像の偏りもくっきりした形ですね。