NHKBS「ワールドWaveトゥナイト」:G8サミットの報道は中途半端だった

 NHK・BS1の国際報道番組「ワールドWaveトゥナイト」。
 今週は、水曜日(25日)放送分から、番組の「アンカー」とされる河野憲治さんがフランスへ、26日、27日の日程で開催される主要国首脳会議(G8サミット)について、3日連続で報じてくれました。
 それなりに期待して観たんですけど。全体としては中途半端な報道だったと思います。

 「番組のG8報道についての取り組み(方針)」「アンカーとしての河野憲治さんの扱い」「キャスターとしての河野憲治さんの振る舞い」の3つの面について、アタシなりの評価を順に記していこうと思います。


 「番組のG8報道についての取り組み(方針)」は、とても中途半端でした。
 G8のサミット(首脳会議)ってのは、共同宣言では大きな方針が提唱されるけど、その後1年間の間にG8外相級会議とか、G8財務会議などなどが続けられて、宣言された方針の具体化が進む習慣。
 アタシとしては、サミットでの討議を受けて、これから1年間の外相級会議や、財務会議などに「どんな課題が与えられたか」を整理して報道してほしかったんですけど。
 そういう報道にはなってなかったですね。

 3日間連続の報道が終わってみれば、議長国のサルコジ大統領がサミットに臨んでの“思惑”と、アメリカのオバマ大統領の外交的“思惑”とを、それなりに観測する、って報道がメインになってました。
 特に、最終日27日分の報道はそういうまとめになっちゃったわね。

 まぁ、サミットを機会にして、フランスやアメリカの外交政策を報じたってことかもしれないですけど。
 それだったら別に「G8サミットの報道」としてやらなくてもできることだと思うんですよね。

 あるいは、サミットの報道として、議長国(フランス)の意向にある程度の重点が置かれるのはわからなくもない。
 でも、それだったら、もっと議長国の意向に対して、ある参加国首脳はどういう態度を示したか、別の首脳はどんな態度を示したか、ってあたりをそれぞれに報じて欲しかったな。


 「アンカーとしての河野憲治さんの扱い」は、あまりうまくいってなかったと思います。
 ここでは「アンカー」を、ニュースショー形式の番組で「種々の報道やニュース解説を整理する役割の人」と、してみます。
 乱暴に言って、25日〜27日にNHK海外支局、海外総局で「記者」と呼ばれる人が、キャスターの役割で出すぎ、なんだわ。「キャスター」は、「ニュースを報じながら解説も加える役割の人」ってことにしましょう。

 まず、25日放送分では、ベルリン支局長の大滝明彦氏、ヨーロッパ総局の山澤里奈氏が登場。それぞれ、ドービルで河野氏トーク。26日放送分では、ヨーロッパ総局の渡辺常唱氏、ワシントン支局長の高尾潤氏が、27日放送分では、ヨーロッパ総局の山澤里奈氏が再登場して、ワシントン支局の櫻井玲子氏も登場、やはりそれぞれにドービルで河野氏トーク

 この、河野氏NHK支局、総局の人の現地トークってがまた、概してうまくいってなかったです。
 NHKの人が、同じNHK河野氏に報告してる風情になって、視聴者に向けて語ってる感じが、まったくといっていいほどしない。NHKの人同士が内輪でやりとりしてて、視聴者置いてきぼりな印象に。
 河野氏の方は、それでも番組を観てる視聴者が訊きたいだろう質問を差し挟んでくれるんだけど、結局、海外支局の人は、目の前の河野氏とのやりとりに終始する感じになっちゃうのよね。

 それに、いくらドービルでのトークでも、河野氏と向かい合ってやりとりしてるだけなら、視聴者にとっては中継トークと大差ないのよね。これにはがっかりしたな。

 むしろ、中継トークだと、海外の人はカメラに向かって話す形になるから、例え中継トークでも、視聴者の側は、視聴者に向けて語られてるかのような錯覚は覚えられる。
 わざと「錯覚」と書いたけど、NHK海外支局(及び、総局)の人が、中継トークで視聴者も意識して語ってるか、それとも中継先の日本スタジオだけを意識して語るかは、それは主に、海外の人の報道姿勢に左右されますよね。

 さて、アンカーとしての河野氏ですけど、3日間を通じてのべ6名(うち、山澤里奈氏は2度登場)の記者の報告を聞いて、総括みたいなまとめの形はつけてました。これも、あまりうまくいってなかったと思うな。
 強いて言えば、NHK海外支局、総局の人を立てすぎだと思う。あるいは、同じことの裏面だけど、出てきて河野氏トークするNHKの人が、それぞれに玉虫色の解説を言いたがりすぎ。

 河野氏には、アンカーとして、もっと大胆な総括や、突っ込んだ指摘をしてほしかった。
 例えば、27日放送分で河野氏の最後のコメントは、次のようでした。

アメリカのオバマ大統領が早々にG8サミットを(会場を)後にした姿が、まぁ、示すようにですね、アメリカは経済力と政治的な発言力を強める中国やインドなど、新興国を交えたG20の方を、より重視するようになってきています。
 また、今回G8各国は、中東で民主化を弾圧する国に対して、どこまで介入するかを巡っては、必ずしも足並みが揃ったとは言えません。ヨーロッパ諸国が多数を占めるG8の枠組みがどこまで有効なものか、今後、見直しの議論は、ますます強まるのではないか。そういった印象を受けました。
 以上、2日間に渡ってフランスのドービルで開かれたG8サミットについてお伝えしました」

 G8の影響力が、ワールドワイドな国際政治ついては低下してるってのは、周知の事実で、だからこそ2008年からG20サミットも開かれるようになった。
 わざわざ、河野さんがフランスまででかけて3日もかけた取材の総括としては、通りいっぺんで、物足りなかったな。

 それに、オバマ大統領、G8サミット会場を、閉会後「早々に後にした」けれど、その足でヨーロッパ諸国歴訪に向かったんだよね。そうすると「オバマ大統領が早々にG8サミットを(会場を)後にした姿」が「アメリカがG20の方を、より重視するようになってきてる」ことを示すって、河野氏のロジックは、割と苦しい。

 グローバルな政治課題については、G20やウルグアイ・ラウンド、ドーハ会議などなどの方がそれぞれに重要なんだけど。例えば、北アフリカ、中東対策などについてはG8はまだまだ重要、ってことではないでしょうか。


 「キャスターとしての河野憲治さんの振る舞い」は、アタシは、苦労してるんじゃぁないかな?? って印象を覚えました。
 河野氏自身が、レポーター役も勤めた「(ドイツ)脱原発へ/フライブルクの取り組み」(25日放送)や、フランス国際関係研究所特別顧問って人に取材して撮ってきた中東問題についての談話(26日放送)は、興味深く観れたんですよね。

 アタシは、河野さんが「ワールドWaveトゥナイト」で、キャスター役と、アンカー役を兼ねていくなら、もっと河野さん独自の整理を打ち出せる時は打ち出した方がいいと思うな。
 地上波総合の方でやってる「ニュースウォッチ9」の“大越健介の直球解説”じゃぁないけどさ(笑)。
あそこまでやるかどうかはともかくとして、番組は、河野氏に「取りまとめ役としてのアンカー」をやらせすぎだと思うな。
 それでなくても、NHKの「記者」って人は、玉虫色で優等生的に無難なまとめを言いがちなのに、そうした“報告”を河野氏にさらにまとめさせたら、玉虫色が強まるばかりじゃん。

 アタシが思うには、河野氏は、むしろNHK社外の人や、他の国際報道メディアの人に、正面からインタビューや取材をしてった方が、興味深い報道をしてくれる、ような気がします。


 それやこれやで、河野氏が現地に出向いたG8サミットの報道、3日もかけた割りに中途半端で、正直期待はずれでした。
 多分ね、27日放送分でオバマ米大統領の動向を報じたのと同じくらいのボリュームで、菅首相の動向も報じてくれるとかすれば、まだよかったんじゃぁないかな??
 実は、今回のG8サミット、2日間の会期に限って言えば、「北アフリカ-中東諸国への対処」の方がより主要な議題だったんですよね。
 「原発の国際安全基準」の議題が軽く観られてたわけではないでしょうけど。こっちは福島の原発事故を受けて、緊急的に取り上げられた議題でさ。2日間の会期では、「北アフリカ-中東諸国への対処」に関連する会議の方が多かった。

でも、「ワールドWaveトゥナイト」の番組が、G8の報道で、「原発安全基準」と「中東問題」の話題を概ね半々くらいの比重で扱うのは、アタシはアリだと思うんですよね。
 「原発の国際安全基準」の話題は、これからの日本にも直接間接に大きく関わってくる課題で、「中東問題」の方は比較すれば遠くの国々の出来事ではある、少なくとも今はまだ。

 つまり、日本の視聴者の関心を想定したら、番組が、原発安全基準」と「中東問題」の話題を概ね半々くらいの比重で扱うのも当然だと思える。
 けれど、それだったら、菅首相の動向も現地から報じてくれた方が良かったと思うのよね。せっかく、現地まで行ったわけだし。