「ワールドWaveトゥナイト」(NHK・BS1):26日放送分の、チェルノブイリ原発事故特集は、悪くなかった

 NHK・BS1の国際報道番組、「ワールドWaveトゥナイト」。
 4月の番組編成替えで、かなり衣替して、まだ落ち着きが良くないとこもある感じですけど。26日放送分の特集コーナー、「事故から25年 チェルノブイリの教訓」と題されたコーナーは、悪くなかったです。
 幾つか目立つ欠点もあったけれど、全体としては悪くなかった。
 NHK民法を問わず、1986年のチェルノブイリ事故から25年めにあたって放送された番組の内、アタシが観てる範囲だと、かなりいい方と思ったな。

 番組の特集「ザ・フォーカス」は、その日扱う題材によって、出来、不出来の差がはなはだしいんですけど。いつも26日放送分くらいの出来を水準にしてくれればいいわね、って思います。


◎「事故から25年 チェルノブイリの教訓」の良かったとこ
 26日放送分の特集コーナー、「事故から25年 チェルノブイリの教訓」、良かったとこを幾つか挙げれます。

 まず、何本か挿入されてた現地レポートの画像クリップの内、コーナーの後半に挿入された3本のレポート・クリップが比較的良かった、と思います。
 これは、チェルノブイリ原発から流出した放射性物質が吹き溜まって、事故から25年たった今も高濃度で残留してるスポットから3ヶ所が選ばれた、それぞれの現地レポート。

 取材先は「ウクライナ原発から30kmの立ち入り禁止区域のすぐ外に近接した場所で営まれている農牧地」、「原発から50kmにあるウクライナの農牧地域、ナロジチ地区」、「原発から200kmほど離れたロシアの町、ノボジブコフ(人口4万人ほど)」の3ヶ所。
 「事故から25年」の特集では、他にも、長短の現地レポート・クリップが挿入されていたんですけど。この3本が比較的良かった。

 そのうえで、現地レポートのクリップ3本で構成された特集後半は、割と良い仕上がりになってたと思う。
 実は、3ヶ所の現地レポート、それぞれは、単独の現地レポートとしては、視聴者に訴えかける力、弱いんだわ。特に出来が悪いとかでもないけど、可も無く不可も無くってレベル。

 でも、構成されることで、視聴者があれこれ考えるきっかけにはなってる。視聴者が、比較したり、関連付けたりして観れば、考えるきっかけや、考えるための材料を見出せて、そこがいい。


 特に、「ロシアの町、ノボジブコフ」の現地レポ。
 これは、旧ソ連政府からも、現在のロシア政府からも、他地域への移住が通告されているにもかかわらず、現在も事故当時をほぼ同じ4万人の住民が住んでるって都市の現地レポ。
 NHKのナレーターが言うには、「ノボジブコフでは、年間の積算放射線許容量1ミリシーベルトを、今でも1時間で被る」。(現地の人が言うには、事故後当時は、現在の5倍の数値が検出されたとも)
 そんな都市で、他地域移住するよう通告が出されているにも関わらず、罰則が定めらておらず、現在も事故後当時とほぼ変わらない4万人ほどが居住している、――と、NHKのナレーションは、要約的な解説をナレーションで流してる。

[後日の補足・訂正] 上記記事の内、「毎時1ミリシーベルト」を被る旨、番組で放送されていた部分は「毎時1マイクロシーベルト」の間違いだったそうです。
この件は、アタシが自分で調べたわけではなくて、らっきーさんとおっしゃる方が、NHKに問い合わせてくださり、コメントで寄せてくださいました。
詳しくは右のコメントをご参照ください。 ⇒ らっきーさんのコメント

 実は、「ロシアの町、ノボジブコフ」の現地レポ、扱ってる題材は、今も現地で続く健康被害と、不足してる被害者支援って話題がメインだったんだけど。
 例えば「他地域移住の通告が出されているにも関わらず、罰則が定めらていないために現在も事故後当時とほぼ変わらない4万人ほどが居住」って、あっさりナレーションで流してるとこにも、検証報道すべきテーマが伏流してるわよね。

 こんな風に、「話をまとめすぎな現地レポート」は、NHKの報道に目立つ悪弊なんだわ。
 悪弊なんだけど、特集「事故から25年 チェルノブイリの教訓」は、全体としては悪くなかった。


◎「事故から25年 チェルノブイリの教訓」は、検証が弱いとこが残念だった
 アタシが思うには、「ワールドWaveトゥナイト」の、特集「ザ・フォーカス」のコーナーは、まだまだ改善の余地があって。水準としては出来がよくない。

 今のとこのアタシの感じで言うと、月〜金で毎日1本5本の特集が放送されるとして、「出来が悪くない〜いい」程度に評価できるのは、1、2本。「しょうがないなー」と感じられる赤点ギリギリの回が、週に2、3本。
 それと別に「これは酷い」とか、腹が立つような回も週に1、2本あったりなかったり。そんな感じ。


 辛めの評価かもしれないけれど。
 「特集」だって意気込みだからでしょうか、「検証報道が薄いのに、論説風のまとめをつけたがる」悪弊が、「ザ・フォーカス」のコーナーでは、目立つ。

 同じような悪弊は、NHK以外のテレビ報道にも、まま観られますけど、NHKの場合は、特に「論説風のまとめ」に、「NHKを代表する公式見解」のニュアンスが色濃く感じられる。
 その結果、世間に慮ってるのかなんだかわかんないけど、「論説風のまとめ」が、問題を鋭く突かない、手ぬるいものになりがち。


 さて、辛めの評価かもしれない、アタシの評価線をお断りした上で、26日放送分の特集「事故から25年 チェルノブイリの教訓」について論評してみます。

 26日放送の特集では、途中数回、チェルノブイリ原発を中心にした、現在のウクライナベラルーシ、ロシアに渡るエリアの地図が、フリップで示されてた。
 この地図は、「事故後当時」拡散した放射性セシウム137の残留濃度濃淡が、色で表示されてて、良かった。特集の中身を理解する参考に良かったです。

 ところが、フリップが最初に示される時に、キャスターは「(赤色系の)色が濃いところほど、セシウム137が高い値で検出されたところなんです」って言う。それしか言わないんだわ。
 ここは、絶対「1番淡い黄色の地域で、月間Xミリシーベルト。1番色が濃い茶色のようなスポットで月間Yミリシーベルトだそうです」とか言わないとダメよね。

 て、言うのは、特集後半で挿入される、現地レポのクリップが、どんな場所での取材なのか、この地図を使って概ねの場所が示されたりもしたから。
 結局、特集であるにも関わらず「検証報道」の「検証」の面の弱さは、こうした細かな準備不足の重なりから出てると思えます。


 市販の地図でも、地図の端の方に、地図上で色分けられた高度の差分を示すカラーバーみたいの普通、挿入されてるじゃぁないですか。
 あーゆーふうに、放射性セシウム137の残留濃度の差分を示すカラーバーを、フリップマップの端に挿入すべきだったんだわ。すべきだったけど、してない。
 これは、キャスターの落ち度ではなくて、番組の構成を仕切る、ディレクター職にあたる人の手抜きなはず。NHKの体制だと、「ディレクター」とは呼ばないのかもしれないけど、そーゆー職責の人はいるはずよね。


 で、もう1度、特集を全体として見直すと「『検証報道』の『検証』が弱い」、くせに「論説調のまとめをつけたがる」のはおかしいわよね。
 本末転倒じゃん。

 「とことん検証してみて、検証過程も放送して、こうとしか考えられません」って「論説」を唱えるんならまだわかるんだわ。
 実は、報道番組って、報じる出来事の問題点をわかりやすく整理して報じてさえくれれば、「論説風のまとめ」なんて必ずしも要らないものよね。
 あってもいいんだけど、現地レポートが、単体で放送しても、問題点をくっきり浮き彫りにしてくれるなら、形式的なまとめなんて、なくても構わない。

 特に、現在進行形の事件を報じる場合、先走った「まとめ」なんてしない方が、結果としていい報道になる例が多いかもしれない。
 BBC WORLDの現地レポートなんか、レポートの最後が疑問形や半疑問形のコメントで締められてる形の方が多いんじゃぁないかしら(??)。


◎検証と論説と報道
 特集「事故から25年 チェルノブイリの教訓」について言うと、コーナー全体のまとめは、河野憲治アナによる次のようなもの。(聞き取りはアタシね)

「25年前のチェルノブイリの事故と、福島第1原発の事故。単純に比較はできませんが、被害を最小限に抑えるためには、長期的な視野をもった調査を実施し、被害を受けた住民への支援を続けることがいかに重要か、改めて思い知らされるものとなりました」

 この全体まとめ、聞きようによっては、断定的にも聞こえるけれど、微妙に半疑問形のコメントとして聞くこともできるはず。
 アタシは、視聴者の側で半疑問形として聞いた方が、「事故から25年 チェルノブイリの教訓」の報道を、良く、受け止められると思います。


 なんで河野アナのまとめコメントが「聞きようによっては、断定的にも聞こえる」かって言うと、やっぱり特集コーナーでの「検証報道」が弱いからですね。
 例えば、「ロシアの町、ノボジブコフ」の現地レポで、「旧ソ連政府からも、現在のロシア政府からも、他地域への移住が通告されているにもかかわらず、現在も事故当時をほぼ同じ4万人の住民が住んでる」って話の筋。
 ここで、検証報道が弱いんだわ。

 事故後、他地域に移住した人の今を取材してない。いるはずですよね。25年もたって、人口が当時とほぼ変わんないってことは、たんじゅんに考えて、事故の後生まれた人口と同じくらいは、事故後移住したってことだから。

 そして、移住命令を出してるにも関わらず、罰則を設けていない政府当局の関係者は、事実上移住拒否の黙認を続けてるわけで、「それは何故か?」のインタビューもしていない。


 もし、「ワールドWaveトゥナイト」の番組が、特集「ザ・フォーカス」のコーナーを、「論説でまとめるコーナー」として推し進めたいのだとしたら。少なくとも、検証面は強めないと、論説が説得力もたないでしょう。
 「検証」って言っても、スタジオでの事後検証よりは、現地レポートを活用しての検証をしてった方が、番組の趣旨にあうと思います。

 アタシは、「ワールドWaveトゥナイト」に、「論説でまとめるコーナー」なくても構わないと思いますし。もし、どうしてもやりたいんだとしたら「ザ・フォーカス」では狙わない方がいいと思う。
 そうではなくて、最近やらなくなった河野アナの「グローバル・アイ」みたいな、「論説コーナー」とはっきりわかるコーナーを別に設けた方がいいと思うな。


 「ザ・フォーカス」は、今よりもっと、現地レポートを充実させるなり、検証報道を充実させるなりしてった方がいい。

 何よりよくないのは、報道クリップを連ねていって、最後を公式見解な論説でまとめる形式。
 バランスのいい報道をして(例えば、ロシア政府側の談話もとるとか)、その上で、出来事の最終判断は、もっと視聴者個々に委ねた方が、報道のあるべき姿に近づくはず。

 だから、26日放送分の、特集「事故から25年 チェルノブイリの教訓」の最後のまとめが「聞きようによっては、微妙に半疑問形のコメントとして聞くこともできる」、断定的にはなりきっていないコメントで締められた点は、よかったと思います。

 皮肉とかではなくって、本心からそう思うんだわ。

 あわてて、書き足しとくけど、報道のまとめ「疑問形や半疑問形にすればいい」ってものでもない。
 NHKに限らないんだけど「政府には責任のある対応が期待されます」とか、お約束事みたいに言うくせに、「何をどうしたら、責任ある対応になり得るのか」ちっとも明確にしてない報道とか、多すぎるわよね。
 ほんとに。