「ワールドWaveトゥナイト」(NHK・BS1):22日放送分の、シリア情勢特集は、良かった☆

 NHK・BS1の国際報道番組、「ワールドWaveトゥナイト」。
 4月の編成替えで、スタートした番組で、まだ落ち着きが良くないとこもあるんですけど。22日放送分の特集「ザ・フォーカス」のコーナー、「混乱続くシリアの行方は」は良かったです。


 アラブ諸国に急速に波及しつつある、民主化運動の内、シリア情勢には、当然のように他の国と違う特性があって。
 バーレーンと同等かそれ以上の宗派対立、社会主義的体制故のリビア以上の情報統制、他のアラブ諸国にも類を見ない激しさの弾圧などなど、「混乱続くシリアの行方は」ってのは、どうしても気になります。

 現政権が長年維持してきた「非常事態法(一種の治安維持法)を撤回しても、軍も投入されたデモ弾圧が止む気配はない」ってタイミングでの、特集もタイムリー。
 シリアって、レバノン情勢やイスラエル問題など、中東地域の全域やひいては世界情勢に関わる問題に、妙な影響力を持ってるんですよね。反欧米的なことも関わって、「ネガティブな影響力」とか呼ばれることもある。喩えて言うなら、強い否決権みたいな影響力を持ってきてる。
 だから、こうまで荒れてるシリア情勢は、日本でも、もっと注目された方がいいと思います。


 さて、特集「混乱続くシリアの行方は」ですけど。
 まず、コーナー序盤、シリアって国の何が、他のアラブ諸国と際立って違うかがわかりやすく解説されて、良かったな。
 それから、「ワールドWaveトゥナイト」お得意の、NHK海外支局支局員の人の現地からのコメントが、「混乱続くシリアの行方は」では、良かったです。限定はされてたけど、臨場感のあるレポートになってて良かったです。
 後、コーナー終盤で、研究者を招いての解説みたいなとこも、比較的良かったと思います。

 「ワールドWaveトゥナイト」は、アタシの偏見だと(笑)、海外支局の人の現地コメントや、いわゆる識者を招いての解説パートで失敗する例が目立つのよね。
 22日放送の特集「混乱続くシリアの行方は」で、現地コメントの出来が良くて、識者解説も比較的良い出来ってのは、番組の水準を頭ひとつ抜いてた感じ。
 特集「ザ・フォーカス」のコーナー、いつもこれくらいやってくれるといいんだけど。


 まず、特集コーナー冒頭ですけど、番組メイン・キャスターの河野憲治アナが、地図や図解フリップを使って、「シリアってどんな国か」の概略を解説。はっきり言えば、ここは報道ではないんですけど、「この後の特集を観る時には、ここだけは押さえといた方が、分かりやすくなります」って感じで、コンパクトにまとめててよかったです。
 細かなことを言えば、「日本の何倍くらいの国土に、日本の何%くらいの人口が住んでるか」とか、「人口は西部と北部に偏ってて、南東部には沙漠が広い国」とかも言ってくれると良かったんですけど。シリアがどんな国かのコンパクトな解説にはなってました。
 特に、シリアの「非常事態法」のことをかい摘んで説明したのは良かったです。

 一方、ヒズボラハマスへの支援を、「中東の陰の黒幕」「フィクサーのような存在」と呼んでたのは、これはちょっとわかり易すぎるまとめかな。
 別にシリア当局が、ヒズボラハマスを100%コントロールしてるわけでもないはずですし。


 次は、先月中旬頃から、シリアの反政府デモと弾圧の流れを再構成。ここは、普通によくまとめてました。
 これまでの方動画像をつないで、NHKアナウンサーの解説ナレーションを画像フレーム外から被せる手法。
 この手法は、えてして、報じる側の立場に偏って、報道に必要なバランスをうしないがちになるんですけど。「過去1ヶ月ほどの事態推移を大づかみに概観する」には向いてるかな。


 そして、NHK海外支局の人のレポートに。
 海外メディアの入国も規制されてるってことで、隣国レバノンにいるNHK支局の人がレポート。
 ここが、「ワールドWaveトゥナイト」の現地レポートとしてはかなり良かったと思います。いつもこれくらいの出来でやってほしいんだわ、ほんとに。

 隣国からのレポートなのに、なんで出来が良かったのか。例えば、情報統制はあっても、国境の向こうから携帯やインターネットで伝わってくる現地情勢を受けてるレバノンの人、みたいなレポート画像を流してて。
 これはこれで、現地レポートなのよ。シリアの隣国の臨場感があって。
 隣国にいて入国できないから、支局員があれこれを口頭で伝えます、みたいな現地コメントよりもずっといい。

 日本のスタジオからも、河野アナが、「(シリア情勢はレバノン側に)どうやって伝わってくるのですか?」って訊くと、現地支局員の人が、具体例を挙げて答える。
 日本スタジオと海外のやりとりってこーであってほしいのよね。
 なんかね、NHK海外支局の人って、現地の具体的な出来事よりも、現地の政情とか総括的にまとめて語りたがる人が目立って。それって報道じゃぁなくって論説なんだわ。
 視聴者はもっと臨場感の感じられる、現地の様子を報じてほしいもんじゃーん。


 その後、特集コーナーラストは、放送大学教授で、多分中東の地域研究をしてる方を招いて、次々解説。
 ここも、ゲストを招いての時事解説としては、「ワールドWaveトゥナイト」の水準より、良かったです。
 多分、ゲストの人の姿勢に負うとこが大きかったのかな?

 この日のゲスト解説は、事実と推測と意見をきちんと分けて、それとわかるように話された解説でした。
 ぶっちゃけ、そんなこともできないゲストを、解説者として呼ぶようなことは、もう止めてほしいんですけど。

 それにしても、番組側の河野アナも、鎌倉アナも、ゲストの解説に、良く質問で絡んでいって、ただの解説でなくて、会話になってたんだわ。そこが1番良かった。
 例えば、「欧米諸国は、なぜシリアには介入しようとしないのか」とかね。視聴者がそこが訊きたいって思うようなことをちゃんと訊いてた。


 時々書いてることだけど、スタジオにいるアナウンサーがゲスト解説者の解説を「はぁ、なるほど」みたいに承るだけなら、アナウンサーいる必要ないのよね。
 視聴者に変わって、解説を聞いてた視聴者が、「それってどうなってるの?」みたいに思うとこを聞き出してくれないと。

 例えばだけど、22日の「ワールドWaveトゥナイト」だと、特集「ザ・フォーカス」に続けて、来日したオーストラリアのギラード首相に河野憲治アナがおこなった長めのインタビューを流してくれて。
 このインタビュー中、河野アナが「日本は(オーストラリアに)LNGの安定供給を期待してますが、どのような対応をお考えでしょうか?」って訊くと、ギラード首相は、長年日本のエネルギー供給をしてきていて、今後もその関係は変わらない、って答える。

 ここで河野アナ、「なるほど」って承りで済ませないで、おもむろに日豪二国間の自由貿易協定(FTA)のことを訊いてくれたわけ。
 ギラード首相は、二国間FTAは、双方にとって利益を生む、ただし今の日本の最優先事項が震災からの復興であるってことは理解してる、って応えたんだけど、河野アナ、さらにもう一歩踏み込んで「どれくらい待っていただけますか?」って訊く。

 これが、報道人の正しいインタビューよね。
 ただ承るばかりのインタビュアーも情けないけど、逆に、日本の立場を政治家みたいに代弁しだす勘違いアナウンサーもたまにいて(NHKにはあんまりいないけど、民放テレビ局には目立つと思う)。報道用のインタビューっに何が期待されてるか、理解してないんじゃぁないかと思っちゃう。

 もちろん、河野憲治アナは、ただ承るばかりの人でもないし、勘違いアナウンサーでもない。
 けれど、「ワールドWaveトゥナイト」で、報道マンとしての河野アナの力量が発揮されること、意外と少ないのよね。
 報道と、コメントや論説の使い分けをきちんとやっていける人だと思うんだけど。
 謎なんだわ。


 ともあれ、22日に「ワールドWaveトゥナイト」で放送された特集「混乱続くシリアの行方は」、トータルの出来は、かなり良かったです。いつもこれくらいの出来を期待したいと思います。