東京電力が発表した福島原発の事故対処工程表の、懸念点と改善余地
東京電力は、昨日(17日)福島で事故状態にある原子力発電所の対処工程表を発表しました。複数のメディアで報じられています。
東電が工程表を発表したこと自体はいいこと、と思えます。
福島県の事故被害地の人たちが「先の見えない状態」で、避難準備を指示されても、避難先からの帰還を考えようとしても、あまりに不透明になってる様子を考えると、「序盤の見通し」が提示されたのはいいこと、でしょう。
世間では、「今の時点で具体的な工程表発表は安易」といった意見も聞かれますけど。工程表公表は必要だった。
けれど、まだ改善余地はある、と思える。
例えばね、東京電力は、オフィシャル・サイトで「事故対処工程表」にFAQも加えた方がいいんだわ。
◎「工程表」17日版は、序盤の作業計画
今回公表された工程表は、福島原発の事故処理としては「序盤の見通し」にあたります。
東京電力のオフィシャル・サイトで公開されている関連プレスリリースでも、「中期的課題」が、工程の「ステップ1」、「ステップ2」の先に想定されています。
「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」(東京電力、4月17日付け)
- 「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋 1」
- 「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋 2」
- 参考1「当面の取組み(課題/目標/主な対策)のロードマップ」
- 参考2「発電所内における主な対策の概要図」
東電が発表した工程表では、工程の「ステップ1」が今から3ヶ月程度の工程と見込まれていて、「ステップ2」が、ステップ1終了後3ヶ月〜6ヶ月の工程として整理されています。
都合、今から6ヶ月〜9ヶ月。おそらく、来年に渡るだろう工程計画です。
「中期的課題」の処理は、さらにその先になります。
考え方としては、「中期的課題」を「原発事故の事後処理」と考えることもできるのかもしれません。
東京電力がそういう考えで、今回の工程表を作成したのかどうか、今イチわかんないんですけど。
公表されたプレス・リリースをみると、今回整理された作業プラン(工程)全体の大目的は、次のように設定されています。
1.基本的考え方
原子炉および使用済燃料プールの安定的冷却状態を確立し、放射性物質の放出を抑制することで、避難されている方々のご帰宅の実現および国民の皆さまが安心して生活いただけるよう全力で取り組みます。
「被害地の人たちが安心して帰還できるような状態」達成を大目的にして、「原子力発電所敷地外の周辺への『放射性物質放出を抑制』」をしてく、って考え方ですね。
懸念されるのは、原子炉、冷却系、タービン機器など、各発電システムに生じているだろう、「放射線物質漏出点の特定、対処」が、作業工程「当面の取り組み」として立項されていないとこ。
ここは懸念される。
「当面の取り組み」というのは、「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」で、「3.当面の取組み」として整理されている課題のことです。
3.当面の取組み
当面の取組みを「I 冷却」、「II 抑制」、「III モニタリング・除染」の3つの分野とした上で、「原子炉の冷却」、「使用済燃料プールの冷却」、「放射性物質で汚染された水(滞留水)の閉じ込め、処理・保管・再利用」、「大気・土壌での放射性物質の抑制」および「避難指示/計画的避難/緊急時避難準備区域の放射線量の測定・低減・公表」の5つの課題ごとに目標を設定し、諸対策を同時並行的に進めてまいります。
なお、具体的な取組については、別紙をご覧ください。
今、「当面の取り組み」として挙げられているのは、あくまで「漏出してしまった汚染水の閉じ込めや処理」「大気、土壌に漏出し続けている放射性物質の抑制」。
「漏出点を探して、特定して、無くしていくこと」は、立項されていません。この点は、懸念されます。
◎懸念
枝野官房長官は、東電による発表直後、報道記者に向けて、東電の工程表には幾つかのリスク要因も含まれている旨、認めています。
各発電機系の「漏出点を特定して、無くしていくこと」を、東京電力が「当面の取り組み」課題に立項していないのはなぜか、今はわかりません。
わかりませんけど、「リスク要因」の1つに数えてもいいのかもしれない。
あるいは、「幾つかのリスク要因と関わる」ので、「当面の取り組み」課題に立項されていないって事情なのかもしれない。
事故原発の主要機器近辺では、放射線量が多くて、調査や補修の目処は現時点では立てられないのかもしれない。
でも、その件には、遠隔操作ロボットを投入する、と東電も発表。実際、ロボットによる建屋内調査は着手されています。
あるいは、今回公表された工程(ステップ1、2)は、あくまで、原発周辺地域への環境影響の「抑制」が優先課題なので、「漏出点を特定して、無くしていくこと」は「中期的課題」とみなされてるのかもしれません。
何にしても、「漏出点を特定して、無くしていく」処理を、幾つかの作業ライン(課題処理)に分散させて記すような記述は、よくないです。
例えば、「当面の取り組み」の「(4)大気・土壌での放射性物質の抑制」では、「原子炉建屋カバーの設置」が、ステップ1後半から着手、ステップ2を通じて達成と設定されています。
(参考1「当面の取組み(課題/目標/主な対策)のロードマップ」)
総合すると、各発電機システムの「漏出点を特定して、無くしていくこと」は、時間がかかりすぎるので、今から6ヶ月〜9ヶ月の、ステップ1、2では、処理しきれないということなのかもしれません。
もし、そうなのだとしたら、東電は、そのようにはっきり明示公表すべきです。
工程表プレスリリースを補足する文書を追加してもいいし、工程表自体をバージョン・アップ改訂してもいい。
もし、そうではない、と言うなら、「漏出点を調査、特定して、無くしていくこと」を、どんな作業手順で処理していくのかも、工程表に盛り込まないと。工程表をバージョンアップして公開するべきです。
どちらにしても、17日に公表された「工程表」及び関連文書には、バージョンアップすべき、改善余地があるのだわ。
◎「工程表」及び関連文書の、バージョンアップ(改善)
17日の公表された工程表やロードマップは、今までの「目処は立ちませんけど、一所懸命色々やってます」式の発表より、ずっといい。
1歩前進です。
けれど、被害地の人たち、遠方への避難を強いられた人たちの知りたいこと、知るべきことをハッキリ告げる説明としては、まだ改善の余地がある。
仮定の話になりますけれど、例えば「原子炉建屋カバーの設置」が終了しても、カバー内部で、地下水への汚染水漏出は、ステップ2以降も続くかもしれないですよね。
だって、汚染水漏出点の特定しなくちゃ、漏出自体とめようが無い。漏出は続くのが、理屈ですよね。
あるいは、余震や、台風や、あるいは火災などの不祥事が起きて、原子炉建屋カバーが破損、カバー内に封じられた放射性物質が再度流出するかもしれませんよね。
こうしたことも考えるのは杞憂なのかもしれません。
かもしれませんけれど、被害地の人たちは、そうしたリスクも知った上で、避難なり、帰還なりを自分で選択した方がいい。
東京電力は、被害地の人たちが、それぞれの暮らし向きを自己選択するために、考える材料をもっと整理して公表しないと。
そうでないと、被害地の人たちの理解は得られないはずです。
◎東京電力は、オフィシャル・サイトで「事故対処工程表」にFAQも加えるといい
あるいは、今回の公表された作業工程表や関連文書は、東京電力が政府や関連省庁に、事故処理方針を了承してもらうためのものだったかもしれません。
それはそれで重要ですよね。
けれど、これだけの事故を起こしてしまって、事故状況は続いてるんですから「お役所に提出している報告レポートを、一般向けにも公表させてもらってます」だけでは、ダメです。
被害地の人たちも、多くの国民も納得し難い。
東京電力は、少なくとも、オフィシャル・サイトで「事故対処工程表」にFAQも加えるといいんじゃないですか。
まず、被害地や避難民の人に聞き取り調査をして、工程表やロードマップについて「ここが知りたい、ここがわかんない」ってとこを調査しなさいよ。
そうした聞き取り調査を踏まえて、「FAQ」を作るの。
東京電力くらい大きな一流企業、内部に広報部とか宣伝部とかあるはずですよね。
そうした部署を、大々的に動員して、やってください。
○補足
今朝、この記事をとりまとめてアップした後、17日付け、共同ニース発の次のコンテンツにたどり着きました。
福島原発収束までに9のリスク 東電が余震や雷など挙げる
原子炉冷却のための電源が余震や雷で喪失、放射性物質の放出を抑える建屋のカバーが巨大台風で破損…。東京電力は、17日公表した福島第1原発の収束工程表で、今後の作業の障害となり得る九つのリスクを示した。現在、既に存在するリスクとして、水素爆発が再度発生することと、原子炉格納容器で起きている可能性がある損傷箇所の密閉作業が長期化することを列挙。原子炉の冷却に必要な電源が、続発している余震や夏場の雷で一部喪失することも挙げた。
3カ月をめどに実施される第1段階の工程では、放射線レベルが高い場所での作業の長期化、使用済み燃料プールの建屋が損傷して通常の冷却ラインが復旧できない恐れがあるとした。放射線レベルが高い水を保管する施設の設置が遅れたり、うまく稼働しなかったりする可能性もある。
その後に続く第2段階では、放射性物質の放出を抑えるために設置を予定する原子炉建屋全体を覆うカバーが巨大台風で破損する恐れがあるなどと想定している。
そうよね。作業工程整理するなら、リスクは当然検討するわよね。
東電も、発表をしたんなら、このリスクも、警戒方針などを1行解説付きの箇条書きにして、オフィシャル・サイトで公開してる「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」のページから、リンクで誰でも辿れるようにするといい。
そーゆーのを発展させてって「作業工程FAQ」にまとめてくといいんだわ。