NHKスペシャル『ネットが革命を起こした』

 20日NHK地上波の総合で、夜9時から放映された「NHKスペシャル」『ネットが革命を起こした〜アラブ・若者たちの攻防〜』。55分で、概ね1時間枠。
 このルポルタージュ番組は、それなりの密着取材に基づいてて、一定の評価はできたけど。
 けれど、全体として一面的な“ストーリー”を視聴者に提示する、残念な結果になってた。


 極端に簡単化して言ってみましょう。
 本当なら、「ネットも使われた革命」「革命にとってのネット」を考察すべきところで、「ネットによる革命」という“ストーリー”を想定してしまっている。
 結果として、ある種の陰謀史観めいた、偏ったイメージを視聴者に印象付ける結果になってしまってたのは、残念でした。

 例えば、カイロの騒乱で、大量の群衆が街頭に繰り出し、結果として警察隊を撤収に追い込んだ1月28日の動乱。この日の大量の群衆の出場に、アルジャジーラの放映が及ぼしたはずの影響について、まったく考慮されていない。
 あるいは、エジプトのインターネット普及率(総人口に対する利用者の比率)が、15.4%(2008年)と、決して高くはないことも考慮されてなかった。“アラビア語で、フェイス・ブックが使えるようになったのは2年前”とか、解説ナレーションを加えてたのに、手抜きと言わざるを得ないんだわ。
(ちなみに、日本のインターネット普及率は69.2%、韓国の普及率は77.8%だ。いずれも2008年の数値で、『データブック オブ・ザ・ワールド2010(vol.22)』に依った)


 NHKスペシャル『ネットが革命を起こした』は、2011年2月に、劇的なムバラク政権崩壊に関わったいわゆる“Facebook世代”の反体制若者グループの1つ「4月6日運動」に密着取材をした。この点は、積極的に評価できる。
 例えば、2月3日から数日間、「4月6日運動」メンバーの数人が、秘密警察(政治警察)に拘束収監され、国際人権団体の尽力で解放されたこと、を報じてる。
 これなんかは、すごく貴重な報道だと思う。アタシが思うに、「4月6日運動」グループは、もし、秋までムバラク大統領の留任が続いたら、自分たちは必ず、秘密警察に壊滅させられる、って危機感を抱いてたはずだと思う。
 その辺について、ドキュメンタリーでは、示唆的な談話しか採れてなかったけど。そう思えたな。


 けれど、一方で番組冒頭の導入ナレーションは、カイロの一画にある「4月6日運動」の拠点(アパートの一室)を「反政府運動をリードした若者たちの秘密のアジトでした」と紹介し、「30年続いたムバラク政権の崩壊、すべてはここから始まったのです」と続ける。
 潤色の強すぎるコメントだし、視聴者のイメージを誘導しすぎるコメントにもなっている。

 簡単に言ってしまえば、NHKは番組で、エジプトの体制変換(革命)に至った背景因(社会問題や広範な不満)と、きっかけ(ネットを使った呼びかけなど)とを、ごっちゃにした“ストーリー”を報じている。
 「4月6日運動」の活動は、ムバラク政権倒壊の「きっかけの1つになった」とは言えるけれど、「すべてが4月6日運動からはじまった」とは言えない。元々、「4月6日運動」自体、2008年4月6日にエジプト北部の地方都市でおこなわれたストライキに連帯して立ち上げられたグループだった。