先週木曜(1日)放送の“HARDtalk”(BBC)は特別番組で、「自殺の権利」を巡る話題を扱ってた

 BBCのロングランなインタビュー番組“HARDtalk”。
 BBC WORLD NEWSの日本語放送でも観れる、辛口インタビュー番組で、マン・ツー・マンのディベートって感じの番組です。

 さて、先の木曜(1日)放送分の“HARDtalk”ですが。
 ゲストのトニー・ニコルスン(Tony Nicklinson)は、6年前に脳梗塞に見舞われ、車椅子の生活に。コミュニケーション能力も損なわれ、今は、専用に組まれたパソコンのシステムや、コミュニケーションボードを使わないとならない。
 夫妻の自宅を訪れたインタビュアーのスティーフェン・サッカー(Stephen Sackur)は、番組冒頭「特別番組」と、視聴者に告げてた。


 トニー・ニコルスンは身振り手振りも不自由だし、会話能力も損なわれてるけれど、思考能力がはっきりしてることは番組中のやりとりを観ればわかる。パソコンを使って、何を言いたいかを、はっきり告げてるからだ。

 トニーは、自分の死を望んでるんだけど、身体麻痺の状態で、自分の手で自死することも困難。加えて、妻のジェーンには、自分の命を絶つ手助けはさせたくない、とも考えてる。
 つまり、トニー・ニコルスンは、医師など第三者がトニー自身が望む尊厳死の処置をすることを望んでる。そして、トニーとジェーンの夫妻は、そうした処置が違法ではなくなるよう希望。裁判所に法改訂の要望を訴えてる。

 番組中、ジェーンは「自殺幇助については、厳格な基準が設けられるべきです」と言ってて、「厳格な基準」を伴った法改訂を求めてるのは、インタビューのポイントの1つになってる。


 トニーとジェーンへのインタビューに基づいた記事は、スティーフェン・サッカー自身の手によるものが、BBCのサイトから読めます。
 “Should a paralysed person have the right to die?”。左記のページでは、インタビューのポイント要約が、ある程度まとまった形(英文)で読めますし、番組のハイライト部分をクリップしたビデオファイル(3分48秒)も観れます。


 さて、番組のやりとりを聞くと、U.K.の現行法では、第三者による尊厳死安楽死の処理は違法とされてることが察せられる。ただし、過去の裁判では、状況に応じて、陪審員が同情的な判決を下した例はある、とスティーフェン・サッカー。
 トニーは、そうした法的にグレイな処置ではなくて、自殺をおこなうことも困難な人物が、望んで自分の命を絶つ権利を主張。厳格な制度整備を求めてる。
 妻のジェーンは、インタビューに対して「自分は夫に死んで欲しくない」んだけど、夫の希望に沿って、訴えを起こすことには協力してる旨、話してた。

 放送された番組では、最後の方のやりとりでわかるんだけど、夫妻の訴えはいったん否決された様子です。日本語版番組からの聴き取りで引用すると次のあたりのやりとり。

「正直言って、これまでの裁判ですが、まぁ、予想の範囲内でしたね。まぁ、想定していた通りと言っていいでしょう。
 これからは、大事です。
 まぁ、法理的な結果、こうなると思っていました。我々の主張は認められないと思っていたのです。これからは、どうなるのか」
「まだまだ、続けていく力はありますか?」
「もちろんそう思っています。トニーもそうでしょ??」
「ジェーンさん、トニーさん、お二方、今日はどうもありがとうございました」

 きっと“HARDtalk”が「特別番組」のための取材をしたのも、裁判の一旦の区切りを踏まえてのことだろうと思えます。

 とてもデリケートで、とてもへヴィーな話題なんですけど。
 20分強のインタビューで、スティーフェン・サッカーは訊きづらいようなことも、ハッキリと訊く。
 「デリケートなことをお訊きしますが」とか、「これは訊かざるを得ないのですが」とか、クッションは置くけれど、ハッキリ訊く。

 ハッキリした質問に、ジェーンとトニーがハッキリ応えることで、視聴者の多くが抱くような疑問に少しずつ回答が告げられていく。番組全体としては、そんなやりとりになってました。

 例えば、最後の手段としては、夫婦でスイスに渡って安楽死の処置をしてもらうか、さもなければ餓死に挑むしかない、って旨を語るジェーン。これを受けたスティーフェン・サッカーが、「そういった機関があるのであれば、時間、労力、お金をかけて、裁判所でなぜ戦おうとするんですか?? 裁判所の記録をみました、そして過去の判例もみましたが、どうみても法の修正、法の改正は難しそうですね」。
 これに対するジェーンの回答は簡潔で「なぜ、スイスに行って死ななければならないのか、自宅で死にたい、と言ってるんですね。家族と一緒に安心して死にたいってこと。」ってもの。


 この番組を観て、アタシは、スティーフェン・サッカー普段の同番組以上に丁寧なリサーチと、何をどう訊くかのシミュレーションをしたうえで、インタビューに臨んでた気がしました。
 まぁ、これは、“HARDtalk”の番組が好きで、できるだけ欠かさず観るようにしてる、アタシなりの感知なんで、どーゆーとこから、そう思えるのか、なかなか挙げづらいんですけど。

 1日放送分は、普段の、果敢な問いただだしとインタビュイーとの応酬で、ハプニングにも似た発言が聞けちゃう“HARDtalk”の持ち味とはちょっと違ってたと思います。
 だから「特別番組」って宣言されたと思うんですけど。デリケートな話題ながら、訊きづらいようなことも慎重に訊いていく緊張感が強い回でした。
 それでも、インタビュイーが自分の言葉で核心を語る、とこは“HARDtalk”ならでは、だったと思います。