緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)予測結果公開についての報道(NHK地上波「ニュースウォッチ9」)

 昨晩(3日)、NHK総合(地上波)の「ニュースウォッチ9」で、文部科学省管轄の「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」予測結果公開についての報道がありました。
 他にも、複数のメディアで報道されています。


 「情報 自治体担当者の元に届かず」と題された「ニュースウォッチ9」の報道。
 趣旨としては、「(原発事故に際して)住民の避難などに役立てられることになっていたんですが(実際には予測がなされていたにも関わらず)、情報が自治体には届かずに、充分活用できていなかった」という筋。


 SPEEDIは、原発事故に備えて整備、開発された放射性物質拡散のシミュレーション予測システム。開発、整備に100億円以上の税金がつぎ込まれてきていた。運営は、原子力安全技術センター(文部科学省)。

 福島原発の事故の後、一般には、1号機の水素爆発から10日以上過ぎた3月23日に、一例のみのシミュレーション結果が公開されたものの、当時、枝野幸男官房長官は「文科省放射能の広がりを逆算できないか指示してきたがデータがなく難しいとのことだった」と説明してた。

 ところが、実際には、原子力安全・保安委員会(経済産業省)は、事故が起きた3月11日から、省庁間のネットワークを使って、SPEEDIを使用、事故後早い時期から推測シミュレーションもしていたことが4月初旬頃には明らかに。結局、原子力安全・保安院は、膨大な予想データ5000件を、やっと5月3日に公開。
 前後して、原発事故統合対策本部事務局長の細野首相補佐官が、記者会見で「SPEEDIの公開がこれだけ遅くなったのは、国民に率直にお詫びしなければならない」と発言。

 「ニュースウォッチ9」の3日報道「情報 自治体担当者の元に届かず」でも、この記者会見の画像クリップは放送されていました。


 原発事故統合対策本部、ひいては内閣の、原子力安全・保安院に対する監督不行き届きはいなめないけれど。
 枝野幸男官房長官など、内閣からの指示に、文部科学省の方が「データがなく難しい」とか答えたのはなぜか? は不審。原子力安全・保安院だってネットワークを使って、SPEEDIを使用してたんだから、文部科学省も指示に従って、必要なデータをネットワークで収集できたんじゃぁないかしら??
 さらに言うなら、原子力安全技術センターが、「原子力安全・保安院の方で、もうシミュレーションしてるはずですが」とか、官房長官に知らせなかったのがなぜなのか? も不審。


 もちろん一番不審なのは、実際には、3月11日からシミュレーションをしてた原子力安全・保安院が、予測結果を隠してたのは何故か? これ、はっきり言ってサボタージュです。

 「ニュースウォッチ9」の3日報道も、一応、この「原子力安全・保安院が、予測結果を隠してたのは何故か?」の検証を試みた形。
 結論を先取りすると、アタシには、中途半端な検証で、結局「何故か?」、「ニュースウォッチ9」の報道では納得できる形では追及されきらなかった、と思うのですが……。


 「ニュースウォッチ9」の報道をなぞってみます。
 報道によれば、地震の影響で、福島県につながるコンピュータ回線が途絶。この間、手順に従えば、県に届けられることになってた予測データは届かなかった。
 その後、福島県からの要請に答えて、FAXで県庁に予測が送付されたのが3月13日。
 前日の12日には、1号機で起きてた水素爆発に応じて、すでに当初の避難範囲指定が拡大された後だった(避難範囲拡大の指示がだされた後に、SPEEDIの予測が福島県にFAX送付された)。


 そして、3月23日に、一例だけシミュレーション結果が公開された前後、原子力安全委員会は、記者会見で、「(原発の)放出源情報が的確に得られなかったので、心配されるのではなかと勝手に斟酌した(斟酌して公開しなかった)」旨を釈明していました。
 おそらく、この3月23日前後の原子力安全委員会による釈明もふまえて、細野首相補佐官は「当時は、やはりパニックを恐れたんだろうと思います」と記者会見で述べていた。


 でも、「パニックを恐れて」って理由で、原子力安全・保安院が予測情報を隠蔽したと言われて、アタシ納得できないな。
 そうじゃぁなくって、原発の危険性を低めに低めにイメージ誘導しようとする、安全・保安院に目立つ思考が、隠蔽にも作用してたんじゃぁないですか?
 アタシ、これかんぐりすぎだとは思わないんだわ。


 ちなみに、原子力安全・保安院は、3月16日には、すでに前日までの流出放射性物質の量を仮定してシミュレーション。この水素爆発後のシミュレーションが、早めに公開されていれば、後に計画的避難地域に指定されていた地域でも、事前に準備できたことはあったかもしれない。


 アタシとしては、内閣による監督不行き届きよりも、原子力安全・保安院による隠蔽や不手際の方が、責任問題として重大だろう、と思います。


 日経新聞Web刊で公開してる「原発事故 迷走1カ月半を検証」の関連コンテンツでは、「放射性物質の拡散予測、『二重行政』で遅れた公表」と題して、原子力安全・保安院によるシミュレーション隠蔽を、次のように論考してます。

放射性物質の拡散予測、『二重行政』で遅れた公表
(4月30日付け)
 放射性物質の拡散を予測する文部科学省の「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」。第1原発の事故での初公開は1号機の水素爆発から10日以上過ぎた3月23日午後9時だ。枝野幸男官房長官は「文科省放射能の広がりを逆算できないか指示してきたが(原発から出た放射性物質量の)データがなく難しいとのことだった」と説明した。

 結局、公表に踏み切ったのは開発者たる文科省ではなく内閣府原子力安全委員会。班目春樹委員長も「(事故後に)なぜか突然、(専門家の立場で)評価してくれと言われた」と文科省の“丸投げ”を示唆する。安全委と経済産業省原子力安全・保安院の関係もぎくしゃくし「二重行政」が責任の所在をあいまいにする。監督役のはずの班目委員長さえ「保安院が情報を出さない。規制官庁としての見解がない」と憤る。

 安全委は「炉心溶融の可能性」に事故直後から言及する一方、保安院は4月18日にようやく溶融を正式に認めたが「ペレットは溶けたが、(すべての)燃料が溶け落ちる炉心溶融とは異なる」と説明した。

 このコンテンツは、残念だけど、「原発事故 迷走1カ月半を検証」の関連コンテンツの内では、意味がとりづらい文章だと思います。

 素直に読むと、3月23日に一例のみシミュレーション結果が公開された前後の、原子力安全委員会による記者会見釈明は、安全委員会が、安全・保安院の隠蔽の尻拭いをしてるように思えるんですけど??
 いったい、3月23日当時って、何がどうなってたんでしょうね?