今週の“HARDtalk”

 BBCのロングランなインタビュー番組“HARD TALK”。
 BBCワールドニュースの日本語放送でも観れる、辛口インタビュー番組で、むしろマン・ツー・マンのディベートって感じ。平均点の高いインタビュー番組です。
 30分枠、月〜木の日替わりプログラムとして放映。当たり外れもあるけど。平均点は高いです。


 今週は、次のような相手へのインタビューが放映された。

  • 14日(月):国連の食料問題特別調整官オリビエ・ドゥ・シェーター(Olivier De Schutter)。シカゴ(U.S.)のスタジオから、デリヴァティブ取り引き大手CMEグループのトップ(エグゼクティブ・チェアマン)、テリー・ダフィー(Terry Duffy)。
  • 15日(火):イングランドの保険相、アンドリュー・ラズレイ(Andre Lasley)。
  • 16日(水):亡命中のジンバブエ野党MDCの党首で、白人政治家のロイ・ベネット(Roy Bennet)。
  • 17日(木):かつてIRAの爆弾テロ事件で冤罪に陥れられ、無実で16年収監されていた、ラディー・ヒル(Raddy Hill)。


 14日放送分では、BBCのスタジオに国連のオリビエ・ドゥ・シェーター(Olivier De Schutter)が招かれ、CMEグループのトップ(テリー・ダフィー,Terry Duffy)は、画像中継で、ディベート(インタビュー)に参加。
 インタビュアーは、BBCの“REPORTERS”メイン・キャスターを勤めてる、ゼィナ・バダウィ(Zeinab Badawi)。
 話題は、食料価格の乱高下に、先物取引をおこなう国際トレイダーの投機的な操作が関与しているのではないか、その責任はどの程度か? と、言った話題。

 国連の食料問題特別調整官は、投機的な取り引きが短期的な価格乱高下に強く影響してると主張。CMEのトップは、国際取引に参加する“プレイヤー”の数が増えれば、市場原理に基づいて価格は長期的には適正な範囲に収まる。そしてプレイヤーの数が増えれば、内には投機的な取り引きをする“プレイヤー”も含まれる、と主張。
 こう書くと、割と整理された話題のようにも思えるけれど。ゼィナ・バダウィは二者のそれぞれに適切な質問を投げかけ、両者の間のやりとりを整理しつつ、視聴者にも理解しやすい言葉を引き出していた。

 アタシは、“HARDtalk”のような番組が、なぜ日本のTVでは作製されないのか、もう何年も不思議で不思議で。今でも、時々考えるのだけれど。例えば、14日放送分のようなプログラムでは、BBCのインタビュアーは、「もんだいの所在」や「両者の立場の違い」を「分かりやすくしよう」と努めることを優先にしてる。決して限られた放送枠の内で、もっともらしい解決策や、最終結論のようなものを導こうとはしないのよね。
 現在進行形の社会もんだいの報道(広い意味での報道)は、こうした姿勢の方が、視聴者にも有益なことの方が多いと思うな。
 だいたいTV番組なんかで、社会もんだいの処方箋がみつかるようなら、世の中こんな楽なことはないわよね(苦笑)。


 15日放送分、16日放送分では、インタビュアーとして、BBC WORLD NEWSのキャリアのある女性キャスター、キャリー・グレイシー(Carrie Gracie)が連続登板。

 イングランドの保険相、アンドリュー・ラズレイ(Andre Lasley)相手の回(16日)には、イングランドの公的医療制度(NHS)の改革方針についてが話題。さすがにこれは、アタシよくわかんなかったわ。だってすごく具体的な細部を問いただしていくんだもん。アタシ、U.K.国民じゃぁないし(笑)。

 ただ、そんな話題でも番組を面白く観れるのは、HRADtalkのインタビュアーが、公表されてる統計資料とか、インタビュ相手自身や、相手が属す組織が過去に公にしたコメントを引用して、相手の発言の不明な点を、順番に問いただしていくから、ってのが大きいわね。
 それから、「相手の主張」に対して、批判的な意見も、これも公表されたコメントを引用して「だれそれは、なんとかの報告書にこう記していますが。この指摘は正しいんじゃないですか?」みたいに尋ねていく。
日本の特に政治家なんかには、こーゆーインタビューを受けると怒りだしちゃったりする不遜な人物とか、「そんなこともわからんのか」とか高飛車に出る高慢な奴とかが少なくないんだけど……石原慎太郎氏なんかは典型だけど、彼ほど目立つ人物が珍しいだけで、実は他にもいるよね。
 実は、“HRADtalk”を観てても、同じようなタイプのインタビュイーがまったく出てこないわけでもない。
日本のTVで観られるインタビュー・クリップに比べると、はるかに、極めて登場頻度がマレなだけなんだわ。

 けれども、“HRADtalk”のインタビュアーは、相手が高慢に出ても、不遜な発言をしても、まったくひるまず、質問を重ねるのね。
 例えば、16日放送分なんかすごくて、ジンバブエから亡命中の白人政治家から、ムガベ政権のもんだい点を訊き出してくんだけど。これも具体的なイシューを抑えながら尋ねていくのね。例えば、「ムガベ大統領が予告してる選挙で、ジンバブエの状況はよくなるでしょうか?」。
 そうかと思うと、「しかし、あなたは今亡命中なわけですから(ジンバブエの政治について)できることはないのではないですか?」とか、聴き辛いこともズバッと聞いちゃう。でも、聞き方は折り目正しいのよ。
 番組観るとわかるけれど、インタビュアーからの質問は、通例、すごく折り目正しく重ねられていく。つまり、相手が怒り出したりすると、その方がみっともなくなるようなインタビューなのね。
 ほんと、なぜ日本のTVでは似たようなタイプのインタビュー番組にお目にかかれないのか、アタシは不思議で不思議でしょうがないわ。


 17日、冤罪で16年収監され、今から20年前に無実が明かされたラディー・ヒル(Raddy Hill)へのインタビューを担当したのは、番組のメイン・インタビュアー、スティーフェン・サッカー(Stephen Sackur)。

 アタシが、“HARDtalk”の番組を熱心に観るようになったのは、メイン・インタビュアーが先代のティム・セバスチャン(Tim Sebastian)だった頃。今は、やっぱりBBC WROLD NEWSで放映されてる“The Doha Debates”って番組の司会って、さらにチャレンジングな番組に出演してるティム・セバスチャンは、アタシ、ファンだな。
(この記事を書くために、Wikipedia-enにあたってみたら、ティム・セバスチャンが初代のメイン・インタビュアーで、スティーフェン・サッカーは2代めのメインだっのね。なるほど)

 実は、“HARDtalk”のメインを勤めだした頃のスティーフェン・サッカーは、ちょっと質問時の表情に意地悪そうな印象も微かにして、アタシ好きではなかった。
 でも、何年もメインを勤めてる内に、サッカーも風格出てきた感じ。最近は、渋いんだわ。
 去年(2010年)、「インターナショナルなTVパーソナリティ(International TV Personality of the Year)」に選ばれたそうだし。(これは、国際放送協会,the Association for International Broadcasting,AIBの選定)


 そりゃ、ブッシュ大統領と選挙を争ったアル・ゴア元副大統領(クリントン政権時代)やら、ベネスエラのチャベス大統領やらの大物にもインタビュー重ねてきたんだものね。

 17日放送分のインタビュー相手は、おそらく、スティーフェン・サッカーが得意としてるインタビュー相手とは、タイプが違うような気がする。少なくとも、“HARDtalk”のインタビュアーとして、サッカーがキャリアを重ねてきた相手と比べるとタイプが大きく異なる。
 質問の性質も、普段の番組で観られるそれとはちょっと毛色が違ってたと思うんだけど、それでも“HARDtalk”らしかったし、スティーフェン・サッカーらしいもので、アタシは舌を巻いたわ。
 例えば「私が驚くのは、あなたの怒りの強さです。そして、あなたの複雑な感情ですね。まだまだ残ってるんですか?」「そうです」ってやりとり。
 インタビュイーは「そうです」の後に、「冤罪に堕されている人はまだまだいるんです」って続けた。

 あるいは、概略「当時のU.K.は、アイルランドの爆弾テロで大変傷ついていた。時間がたった今、そうした事情が警察にプレッシャーを与えていた、といった事情を理解する気にはなりませんか?」といった趣旨の質問。これに対して「そうは思いません。警察は、まったく関係の無い人間の人生を滅茶苦茶にしたんです」と応える相手。サッカーが、イスラム過激派のテロに話題をつなげると「イスラム社会に対して、同じことを繰り返してはいけません。テロリストを増やすだけです」とのコメント。

 インタビュアーの方から尋ねなくちゃ、こんなコメント滅多に聞けないわよね。それも、折り目を正しながら訊くからこそ、聞きだせたコメントなのだと思います。ほんとに舌を巻くやりとりでした。